【第5回】あん摩マッサージ指圧師の手技療法よもやま話

マッサージ師のためのセルフケア

施術をしていると
「先生はどうしてるんですか?」と患者さんに聞かれることがあります。
自分自身の体調管理についてです。

マッサージや鍼灸を行なって患者さんが健康になっていく姿を見られるのは、この仕事の醍醐味ですが、皆さんは自分の健康管理をどのようにしていますか。

よく言われる<栄養、休養、運動>という3つの視点から、施術師は日常をどのように過ごすとよいかについて私見を述べたいと思います。

栄養のとりかた

最近、流行りの分子栄養学は食べたものが体の中でどう働くかに注目しています。

たとえば、疲れやすい患者さんには鉄やビタミンB群が不足している可能性があることを伝えます。
そのうえで「鉄やビタミンB群は細胞のエネルギー産生に必要な栄養素なので、レバーや肉、納豆などを食べましょう」という伝え方をします。

つまり、個人に最適な栄養は何かを考えることで、その人に必要な栄養素を摂ることが大切だと考えています。一人ひとりの遺伝の影響や年齢による消化吸収能力の違いによって、必要となる栄養素は異なるからです。

以前の栄養学であれば、五大栄養素をまんべんなく摂りましょうとか、野菜を多めに脂質は少なめにといった何を食べればよいかという包括的だった考え方が、一人ひとりを見ていく栄養学に視点が変わってきているのだと感じます。

もう一歩踏み込んで、いつ食べるかにも注目したいと思います。
これも突き詰めていけば、自分にとっていつ食事をするのが最適かということです。

朝にしっかり食べて昼は食べない人もいれば、朝・昼はコーヒーだけで夜にしっかり食べたい人もいます。

食べた物を消化して吸収するには、体力を使います。

昼ごはんを食べたあとに眠たくなった経験をしたことはあるでしょうか。消化吸収をするために血液は胃腸に集まることで、脳まで血液が回りにくくなっているという現象です。

この視点から考えると、私も含めて身近な治療家仲間には昼食を食べない、または食べてもバナナ程度という人が一定の割合でいます。1日の施術に集中するためと言ってよいでしょう。 訪問マッサージに従事していた頃は、1日10件以上のお宅に伺っていたため昼食を取る時間さえなかったことが影響しているのかもしれません。

休養の取り方

はりやきゅうは道具が仕事をしてくれますが、マッサージや指圧は自分の手指を道具として用います。
あん摩マッサージ指圧施術は、施術者の姿勢ひとつで効果が変わるため、自分自身の体をつねによい状態に保っておくことはプロとして最低限の条件と思います。

手指を使う、体を道具として使っているとやはり疲れ=筋疲労は残ります。

指圧であれば母指球が筋肉痛になったり、圧を支えるために首や肩にも負担が掛かります。高齢者のご自宅など施術環境によっては十分に安定した姿勢をとりづらいため、腰に負担がかかることもあるでしょう。

セルフケアの仕方としては2つ、入浴とストレッチをお勧めします。

お風呂に入って体を温めることで血行が良くなり、筋肉も柔軟性を取り戻します。故 浪越徳治郎先生が現役で施術をしていた当時は、指圧センターに付属して大浴場があったと聞いています。施術を受ける前にお風呂に入って、それから指圧を受けることで相乗効果を狙っていたのだと思います。それくらい、入浴は全身の筋疲労を回復するには効果的です。

私自身は長い時間、湯船に浸かっているのが苦手なタイプでした。

しかし、年齢とともに体温が下がってきて冷えを感じるようになった頃から、意識してお風呂で体を温めるようにしています。その時に使い始めたのが、砂時計です。1分、3分、5分と3種類の時間を図れる砂時計が一つになったものを風呂場に置いてあります。サラサラと砂が落ちていくのを眺めているだけで、ちょっとした瞑想効果もあるんじゃないかと思います。

ストレッチのやり方もさまざまです。
気になるところを曲げたり伸ばしたり、加減をしながらストレッチをすると思います。

ただし、ストレッチと入浴が違うのは習慣化する必要がある点です。日本人であれば、習慣として毎日お風呂に入るのが染みついているでしょう。最近はシャワーで済ませる人もいますが、それでも世界から見れば日本人がお風呂好きなのは明らかです。

かたや、ストレッチを小さい頃から日常的に続けてきた人は稀だと思います。

そこで、ストレッチを習慣化するにはどうしたらよいか、筆者もストレッチを習慣化できていないので、ChatGPTに「マッサージ師がストレッチを習慣化するにはどんなコツがありますか。3つに絞って教えてください」と尋ねました。

ChatGPTの回答は、

1.施術の前後にストレッチをセット化(ルーティンにする)

2.「ながらストレッチ」でスキマ時間に組み込む(歯磨き中、入浴中など)

3.1回3分からでOK!とハードルを下げる(気軽にできると習慣化しやすい)

…なのだそうです。

ほかにも、家庭の主婦が…、女子高生が…、管理職のサラリーマンが…、と3つのパターンで同じ質問をしたところ、要点として

・すき間時間を見つけてやること

・1回の時間は短くていい(30秒~3分)

・毎日続けたらどんな効果が期待できるかを想像すること

このあたりが共通して見られた回答でした。すごい時代になったものです。

そうそう、休養として一番大事なのは寝ること。 お風呂であったまってストレッチをしたら、夜10時までには布団に入って寝る。こんな生活ができたら理想的ですね。

運動について

最後に運動のことを記したいと思います。

詰まるところ、自分が好きなスポーツをしたらいいと思います。テニスであれゴルフであれ、屋外で体を動かすことはよい気分転換になります。

運動をしてこなかった人はどうすればよいでしょうか。

おすすめは一択、散歩です。歩く行為はヒトがヒトらしく生きるための基本中の基本です。在宅現場で一日をベッドサイドで過ごしている高齢者を見てきた経験から、歩ける能力はADLに直結すると考えています。

そのうえで重要なのは、手ぶらで歩くことです。

施術を受けに来る患者さんに「歩いてくださいね」というと「通勤で歩いています」とか「コンビニに行くときにちょっと歩きます」と仰います。

しかし、手にモノを持っていると重心のバランスは偏ってしまいます。左側だけにバッグを抱える癖がある人は、たとえば右の腰が痛くなったりするケースがあります。

そう考えると、日常的に手ぶらで歩いている人ってどれくらいいるでしょうか。

まわりを見渡しても、私を含めてほとんどの人がカバンを持ってまたはリュックを背負って歩いているのではないでしょうか。

一歩引いて考えると、手ぶらで歩くことにより四肢と体幹の連動性が出てきます。左右の上肢と下肢を交互に振り出すことで、脊柱や胸郭も偏ることなくわずかに動き始めます。このことは骨格や筋肉の運動連鎖、そして脊柱には脊髄が通っていることを考えれば神経系にもまんべんなく刺激が入っていることを意味しています。

続けるコツは、すき間時間に短時間行うことでした。手軽にできて効果の高い運動は歩くこと。いつもは自転車で行く近くのコンビニまで、ちょっと歩いてみるなど工夫してやってみる価値はあると思います。

手ぶらで散歩は、ただ目的もなく歩くことと同じに感じるかもしれません。

それでは何にも面白くないと感じる人は、社交ダンスを始めてみてはいかがでしょうか。

音楽に合わせて踊る社交ダンスは一見、敷居が高いように見えますが、これからダンスを始める方を対象にしたレッスンもあります。簡単なステップを中心にタンゴやスイングを教えてくれます。なかには、カッチリしたダンス教室ではなくてお酒を飲みながら踊れるダンスクラブもあります。

ダンスを踊っている映画のワンシーンを見て「いつか自分もタンゴを踊ってみたい」と感じていた知人のマッサージ師さんをレッスンに連れて行ったことがあります。その彼はとても楽しかった!という出来事を綴った記事もありますので、よろしければご一読ください。

『知り合いがタンゴを習いたいというので初心者向けのダンスイベントに誘ってみたら、ペアダンスっていいなと思ったのでその理由を書いてみた』
https://note.com/kinbousui/n/ne1f49ad01f78

なんだか最後は手前味噌になってしまいました。

筋トレのように必死になって運動をするのが好きな方もいると思います。

その反対に曲に合わせてステップを踏むのが楽しいと感じる方もいるでしょう。体を動かすことで新陳代謝がよくなり、気分もリフレッシュできるといいですね。 今回の記事では、栄養、休養、運動という3つの視点から、施術師のセルフケアについて記しました。どれか一つでも取り入れられるものがあれば幸いです。

<ライターProfile>
name :神田浩士(かんだ ひろし)
保有資格:あん摩マッサージ指圧師、鍼灸マッサージ教員資格

【得意分野】
・指圧をはじめとする徒手療法による施術
・徒手療法(マッサージ、指圧等)の教育指導

【略歴】
日本指圧専門学校卒業。専任教員として奉職したのち、訪問マッサージ会社に勤務し在宅医療の現場を経験。
機能解剖学、生理学に基づく知見をベースとして、最小限の刺激によって当人の自己治癒力を高め、健康を回復させる施術を行う。
大学時代に始めた競技ダンス(社交ダンス)にも注力的に取り組んでおり、現在は高円寺にて「手あて指あつ処 あい治療院」を開業。
メディア発信やオンラインサロンを活用した後進の育成にも力を注いでいる。

note(SNS)|徒手療法と社交ダンスに思うこと
https://note.com/kinbousui

てあてのたまご|一人ひとりをしっかりフォローします
https://enabeauty-ai.com/therapist

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