【第三回】公認心理師が解説!からだケアのための”こころケア”

<第三回>
慢性疾患に対するACT (認知行動療法)の意義と
治療院でできるトークセッション

前回のおさらい

前回は「避けられない痛みは受け容れながら有意義な人生を切り拓く手法」として、認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy; CBT)の第三世代であるAcceptance and commitment Therapy(以下ACT)のお話をいたしました(ACTについての詳細はこちら→<第二回>痛みやストレスに対する付き合い方を考えよう

患者の望ましい行動変容を教育・支援するのが医療者の役割

今回は、このACTが、関節リウマチ・線維筋痛症・腎不全・糖尿病などの慢性疾患に対してどのように効果があるのかについてお話をしたいと思います。

慢性疾患はその名の通り根治することがありません。先進国を中心に疾病構造がこのような慢性疾患中心となってきていると言われています。そして、自己管理こそ治療の要とする「治療的患者教育」が世界保健機関(WHO)でも示されています。すなわち、病院や治療院外での患者さん自身の服薬、食事、水分などの管理や、ストレッチなどの必要な運動などのセルフケアが非常に重要になるということが言えます。

人間の行動というのはストレス・不安などの心理面によって良い方向にも悪い方向にも変化します。すなわち、人間の行動の1つといえるセルフケア、自己管理には心理面が大きく関わっており、心になんらかの介入をしていくことこそがセルフケアにつながっていくことはいうまでもないでしょう。

痛みや不安・恐れによって困難になる”自己管理”

慢性疾患の患者さんは、疾患に伴う辛い経験などもあり、「この辛さがいつまで続くかわからない」、そして「悪化するかもしれない」と不安な方が多いでしょう。そのため、いくら自己管理しようとしても、病気のことはなるべく考えないようにしようとしてしまうことがあります。

病院や治療院で「食事や服薬に気をつけるように」とか「ストレッチなどの運動をするように」といくら指導されても、病気のことを忘れてしまいたいと思うあまり、好きなものを食べてしまったり、服薬をスキップしたり、運動も”また明日でいいや”という形になってしまうのです。

もしくは反対に疾患と闘うことに必死になり、ストイックに食事制限をしたり運動をしたりするといったような行動があらわれることもあります。毎回の検査では、検査結果に一喜一憂し、疾患以外のことが考えられず、頑張りにムラがみられ、本来やりたいことに集中できないこともあります。

治療する側は「なぜ家での自己管理が重要だと話しているのにやってくれないのだろう」と思うかもしれませんが、治療される側は、頭では自己管理をした方が良いと思っていてもできないような心の状態にある方も多くいるのです。まずはそれを理解するということが、患者さんが自己管理できるようになる心へのアプローチの1つかもしれません。

慢性疾患に対する認知行動療法への期待

ここからはACTの考え方が上のような慢性疾患の患者さん、そして自己管理に対してACTがどのように機能するのかをお話して参ります。前回の記事でお伝えしたように人間はある思考を忘れようとすると、よりその思考が浮かぶようになるといわれています。つまり、不快な思考や感情が存在していることよりもそれを忘れようとすることで苦しむのです。

慢性疾患の場合にも疾患のことやそれに伴う不安や嫌な考えを忘れよう、避けようとするのではなく、うまく付き合っていくことが重要であり、自己管理などの良い行動を作っていくのです。それを可能とするのがAcceptance and commitment Therapy(以下ACT)であるというわけです。

こちらの図は、ACTの研究がどのくらいなされているかの論文数を表しています1)。これをみていくと、痛みや二型糖尿病、がんなどの慢性疾患に関する研究も多くなされてきていることがわかります。また、ACTは、慢性疼痛に止まらず、糖尿病、肥満などの慢性疾患の分野においても効果が示されています2)
ACTの介入は「不快な思考や感情と上手に付き合うための介入(=Acceptance)」「自身の大切なことに向かって行動を進める(Commitment)」という大きく2つに分かれています。医療現場や治療院などで介入する場合、まずはCommitmentの介入を行うことが現実的であり効果的ではないでしょうか。

あなたの大切なことはなんですか?
ACTにおける”価値”とは

Commitmentの介入の「自身の大切なこと」とはACTでは「価値」と呼ばれます。この「価値」とは、人生において自分のやっていきたいこと、生きがいのようなものだと言われています。これは、「テストで良い点をとる」といったような達成したら終わってしまう目標とは異なります。幼い頃に心の奥底から充実感を得られたと感じたことなどに、この「価値」は含まれています。

例えば、「人と関わっていきたい」とか、「孫の成長を見続けたい」といったようなものです。ACTはこの「価値」に沿う行動を行う(=Commitment)ことで、Acceptanceの介入も少し進み、行動が拡大するという理論を持っています。つまり、患者さんの人生において大切なことって何だろうということ、そしてそのために明日からできる行動って何だろうということを一緒に考えていくことが、後の自己管理、セルフケアをするという行動につながる可能性があるということになります。

「価値」を引き出すポイントは、自分はどんなことをするのが好きだったのか、どんなことにやりがいを感じていたか、どんなことに感動したかなど、過去のエピソードを聞くことも良いとされています。ぜひ、明日から治療中の雑談などで昔話をしたりしながら、どんな人生を生きていきたいのだろうということを話し合ってみてはいかがでしょうか。

<参考文献>
1.武藤崇(2017)アクセプタンス & コミットメントセラピー(ACT)の無作為化比較試験の研究道向(1986-2017年). Doshisha Clinical Psychology: Therapy and Research Vol.7, No.1, pp.29-34.
2.Kim D, Christian L, Ricard W. Acceptance and commitment therapy (ACT) for professional staff burnout: a systematic review and narrative synthesis of controlled trials. Journal of Mental Health. 2023; 32(2): 452-464.

<ライターProfile>
name :藤本志乃(ふじもと しの)
保有資格:公認心理師・臨床心理士
【得意分野】
・Acceptance and Commitment Therapy(マインドフルネス・認知行動療法)
・より良い生き方を軸におくカウンセリング(子育て・女性・働く人)
・慢性疾患をもつ方のカウンセリング
【略歴】
教育相談の経験後、腎臓内科にて透析患者のカウンセリングに従事し、慢性疾患患者が疾患をもちながらより良く生きていくための心理的介入に関する研究や講演なども行ってきた。その後、”よりよく生きることを考える”をテーマにLe:selfにて、オンラインでのカウンセリング・マインドフルネス・ACTワークショップなどを行っている。

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