【新連載:公認心理士が解説!からだケアのための,こころケア】


<第1回>
からだの痛みや不調にまつわる
ストレスとこころケア

心を整えれば、身体も整う

誰しも感じたことのある、体の痛みや不調。これらはもちろん怪我・外傷、疾患などの器質的な側面から生じるものもありますが、ストレスや不安などの心理的な側面から起こることもあると言われています。
心と体は切り離せない関係にあるとも言われており、心の状態が身体の状態に影響を与える、もしくは身体の状態が心の状態に影響を与えるといった相互に関係している状態を「心身相関」と呼びます。東洋医学的にいえば「心身一如」
つまり、心をケアすることで、身体のケアにもなるということです。それでは、私たちはどのような心の状態に注意していれば良いのでしょうか。

私たちが日常でよく耳にする心に関係する言葉として「ストレス」という言葉があると思います。「ストレスが溜まる」というような表現を私たちは日常でよく使うようになりました。この「ストレス」のレベルというのは、私たちが注意すべき心のバロメータになるといえます。「ストレス」が溜まってくると、図の黄色の部分のように心理的にも、行動的にも身体的にも不調が出てくることがわかっています。身体の痛みなどもストレスが原因となることがあるのもお分かりいただけるかと思います。

ストレスの正体を知る

このストレスはどのようなことが原因となっているかについてご存知でしょうか?1つは、「人生のイベント(Life event)」があるときだといわれています1)。「人生のイベント」というのは、結婚・離婚、怪我・病気、転職・退職というような環境の変化が伴うときを指しています。2つ目は「日常苛立ち事(Daily hassles)」といって、日常の中で苛立ったり、不安になったりする出来事があるときです2)。人間関係、仕事・勉強・生活の負担や電車での混雑など些細に思えるような事であってもストレスの原因となるといわれています。

つまり、痛みの原因となる怪我や病気をするということは上の「人生のイベント」にあたりますし、体に痛みがある、痛みがあることでちょっとした不安があったり支障があったりするということも「日常苛立ちごと」にあたる十分なストレスの原因となるのです。

そのような既にあるストレスに対し、痛みを軽減するための運動・食事・服薬などの自己管理の負担なども重なって苦しくなってはいないでしょうか。心というのは一見、見えないもののように感じますが、さまざまな研究が進み、このようなストレスを含む心の扱い方に対して、きちんと効果があると言われる心のケアをすることで、ご自身の心はしっかりと回復し、それに伴い、身体の痛みや不調も緩和されることがわかってきています。

しかし、自己流になってしまうことでよかれと思ってやっていることが、さらなる心への負担、大きなストレスとなり、心も身体もさらによくない状態へとシフトしてしまうこともあるのです。

エビデンス(科学的根拠)のある心理療法

では、どのような心理学の理論を用いて心をケアしていけば良いのでしょうか。確かに心理学には、さまざまな理論があるため、アメリカでは実証的に支持された治療のためのガイドライン3)というもので、あるセラピーがどういう症状や疾患に良いかをと示してくれています。それを見ると、「認知行動療法」という技法が効果を挙げているということが言えると思います。

ただ、一方で、誠実さをもって提供される他の心理療法でも、訓練をきちんと受け、堅実にそれを提供できるカウンセラーであれば、認知行動療法と比較すると同等の効果が得られるとも言われるため、この『理論が絶対的にいいです』ということは一概には言えないでしょう。
しかし、エビデンスとしては認知行動療法が効果の高い心理療法だと言われていることはここできちんと述べておきたいことの1つです。

心も身体も、適切な専門家を選ぼう

また、あん摩マッサージ指圧師・鍼灸師と同様、心を扱う専門家にもきちんとした臨床心理士・公認心理師といった資格があります。公認心理師は国家資格でもあり、これらの資格を持った人たちは一般的に、上記のような理論とエビデンス(効果がきちんとあるものを扱う)をもち、法律を遵守して、クライエントさんに接することになっています。

(※臨床心理士は公益財団法人 日本臨床心理士資格認定協会が認定する資格。協会が指定する大学院を卒業することなど、難易度の高い受験要件がある。参考:公益財団法人 日本臨床心理士資格認定協会 http://fjcbcp.or.jp/rinshou/juken/)

ご自身のお身体の痛みなどにまつわるストレスや心の状態について相談したい場合には、ぜひそのような資格や知識をもったカウンセラーさんを選んで、一度ご利用いただけると良いなと思っています。
私たちは何より、身体の痛みを持つ方、そしてそのような患者様にたずさわる皆様がご自身の心と身体と上手に付き合いながらご自身の人生をより良く歩んでいかれることを願っています。

(参考文献)
1)Homes TH, Rahe RH. The Social readjustment rating scale, J. Pschosom. Res. 1967; 11: 213-218.
2)Lazarus, R.S. and Folkman, S.: Stress, appraisal, and coping. New York: Springer (1984)
3)empirically supported treatments: ESTs  https://www.div12.org/

〜次回は12/10(日)配信予定です〜

<ライターProfile>
name :藤本志乃(ふじもと しの)
保有資格:公認心理師・臨床心理士
得意分野:
・Acceptance and Commitment Therapy(マインドフルネス・認知行動療法)
・より良い生き方を軸におくカウンセリング(子育て・女性・働く人)
・慢性疾患をもつ方のカウンセリング
略歴:
教育相談の経験後、腎臓内科にて透析患者のカウンセリングに従事し、慢性疾患患者が疾患をもちながらより良く生きていくための心理的介入に関する研究や講演なども行ってきた。その後、”よりよく生きることを考える”をテーマにLe:selfにて、オンラインでのカウンセリング・マインドフルネス・ACTワークショップなどを行っている。

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