【第4回】あん摩マッサージ指圧師の手技療法よもやま話

医業類似行為から紐解く
あん摩マッサージ指圧師のあり方について

マッサージ師として仕事をしていると、一度は必ず耳にするのが無資格者問題です。
今回はこのテーマを踏まえて、業界の向上を願いつつ私の思うところを綴ります。

医業類似行為とは何か

専門学校の関係法規という科目のなかで「医業類似行為」という言葉に出会います。マッサージを学ぼうとする前は、そのような言葉は聞いたこともありませんでした。そう考えると、一般の方にとって馴染みのない言葉です。

医業類似行為とは医業(医行為=医療行為)に類似している行為のことで、資格を持たない者が医行為を行うと処罰の対象となります。例えば医師以外の者が医療行為を行うことを禁止しています。

また、柔道整復師、はり師、きゅう師、あん摩マッサージ指圧師については、それぞれの免許の範囲において業務を行うことが認められています。

この場合の業務とは、柔道整復師であれば整復(≠整体)のことを指し、あん摩マッサージ指圧師であれば、あん摩・マッサージ・指圧のことを指しています。これらは厚生労働省により認可される免許制度として存在しています。

時代を遡ると、明治維新の頃から西洋医学が日本に輸入されました。薬を処方したり、外科手術を用いて健康の回復を促したりする医学です。もちろん、これらは医師免許を持つ者が行います。

大正時代には、それらのアンチテーゼとして薬を使わない無薬療法というものが流行りました。活法や療術と呼ばれる徒手療法や電気や光線、温熱を用いる代替療法の類いです。そしてこれらは医師の資格を持たない者が行なっていたため、総じて医業類似行為と呼ばれるようになります。

医師でない者が医療に似た行為を行っていては危険なのは容易に想像できますよね。法文では昭和22年の、”あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師等に関する法律(以後、あはき法)”制定により医業類似行為は禁止とされています。

「整体」という使いやすい言葉

かたや「整体」という言葉があります。この言葉は雑誌やメディアでもよく見かけます。その守備範囲はとても広くて、民間企業が運営するスクールで手技を身につけると「整体師」という肩書きを手に入れることができます。

もしくは、理学療法士や柔道整復師などの資格を持つ人たちが「整体院」という名のもとに手技を行っています。あはき法の解釈に基づくと、このような徒手療法は全て医業類似行為として扱われます。繰り返しになりますが、柔道整復師、はり師、きゅう師、あん摩マッサージ指圧師については免許の範囲において業務を行うことが認められていますし、独立開業権もあります。

鍼や灸を堂々と無資格で行っている人は見たことがありません。
しかし、整体または揉みほぐしと称して指圧やマッサージと酷似する手技は日常的に行われており、事故などが起きない限りは取り締まられることはないのが現状です。

こういう景色を見て私自身、専門学校で指圧を教えてきた経緯からずっと悔しい思いをしてきました。3年間と数百万円という時間とお金をかけてきたのに、世間では民間資格の人たちと同じ扱いをされることに。民間のスクールでは半年間100万円ほどで整体師という肩書きを発行しているところもあります。

医業類似行為は禁止されているのに、なぜ取り締まりが行われないんだろう。そんな気持ちを抱えつつ指圧の仕事を続けていた時期があります。

そしてある時、その気持ちがポキッと折れました。
経済産業省によりリラクゼーション業が認められたのを知ったときです。

ハローワークに行けば、リラクゼーション業として求人募集の内容を見ることができます。これは公の機関が「整体」をリラクゼーション業として認めたことに他なりません。

リラクゼーション業は癒しを提供することを目的として揉みほぐし、つまり指圧やマッサージと酷似する手技を行っている。その業態がハローワークで求人募集されているということは、医業類似行為を堂々としてもいいというお墨付きを与えたのと同じじゃないか。私はそのように感じましたし、怒りを通り越してとても残念な気持ちになりました。

日本標準産業分類(平成25年[2013年]10月改定)によれば、


<あん摩マッサージ指圧師の職業分類>

・大分類 P 医療,福祉

・中分類  83 医療業

・小分類  835 療術業

・細分類  8351 あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師・柔道整復師の施術所


<リラクゼーション業の職業分類>

・大分類  N 生活関連サービス業,娯楽業

・中分類  78 洗濯・理容・美容・浴場業

・小分類  789 その他の洗濯・理容・美容・浴場業

・細分類  7893 リラクゼーション業(手技を用いるもの)


参考)総務省日本標準産業分類
https://www.soumu.go.jp/toukei_toukatsu/index/seido/sangyo/H25index.htm

上記のようになっています。

もちろん、法に則ってルールを守ることが業界の安定と治安の維持につながります。しかしいったん、このような既成事実ができてしまったのならば、両者はそれぞれに新しい道筋をつけることが次に行われることと感じます。

(※編集記:ちなみに、同じ中分類の洗濯・理容・美容・浴場業も公衆衛生上の観点から許認可が必要な免許事業ですが、どうしてリラクゼーション業は免許を持たなくても許されるのか不思議です)

たしかに、マッサージの揉捏法と整体の揉みほぐしの区別ができるかと言えば私たち有資格者でさえ、ハッキリとその違いを説明するのは難しいと思います。そして「整体やってます」と言ったほうが伝わりやすい一面があるのも残念ながら事実です。そういう瞬間ってモヤモヤしまくりです。

一方でSNS界隈では、有資格者が無資格者を叩いている投稿を見ることがあります。それらを見るたびに「気持ちはわかるよね…でもさ、いまはそういう時代じゃないのかも知れない」と感じています。

あん摩マッサージ指圧師としてのあり方について

昭和の時代から現在に至るまでの流れを振り返ると、あん摩マッサージ指圧師は医業類似行為という言葉にヤキモキさせられてきました。無資格者を厳格に取り締まることができず、なし崩しになっている現状がまかり通ってしまっているのであれば、取り組むべきことは整体業界を叩くことではなく、自ら業界の襟を正していくことと筆者は考えます。

その前提に立って感じることは、あん摩マッサージ指圧師は有資格者としての知識と技術の教育が十分でないことを挙げざるを得ません。
ひとつの理由はあはき法19条による影響だと私は認識しています。あはき法第19条は、晴眼者向けのあん摩マッサージ指圧師養成学校の新設を原則認めないという条文です。
視覚障碍者の職域保護は重要であることは語るべくもありませんが、一方で、その名目のもとに、あん摩マッサージ指圧師の養成機関は定員を増員できず、国家試験のレベルも一定の範囲以下に留められてきました。競争のない業界は伸び代がないという言葉の通り、あん摩マッサージ指圧師の業界は他職種から低く見られている一因はここにあると感じています。

ふたつ目の理由は、3年間ではり、きゅう、あん摩マッサージ指圧の3つの技術を教え切れているのかという疑問です。3年間で所定のカリキュラムを履修して国家試験に合格すればそれぞれの免許を取得できますが、実技を身につけるのに十分な時間を費やしているでしょうか。シンプルに練習量の問題です。

かたや、日本指圧、長生学園、京都仏眼の専科を卒業した施術者は徒手療法のみを習得することに3年間を費やしています。はり、きゅうを履修しない分、単純に考えてもカリキュラム上では実技に3倍の時間を費やしています。前述の3校で実技指導をする専任教員、非常勤講師の先生方には特定の手技に集中できる意義を十分に認識してほしいと思いますし、卒業生はひとつのことに3年間注力できたことを自負していいと思います。

また、はり、きゅう、マッサージの資格を同時に取得した施術者の皆さんには(もちろんはり、きゅうも含めて)あん摩、マッサージ、指圧にも十分に時間を割いて実践するように心掛けていただきたいと思います。

そのうえで、あん摩マッサージ指圧師として日々の業務に当たるには、何を心掛ければよいのだろうかと考えてみます。

突き詰めれば、その独自性を高めていくことにほかならないと思います。あん摩を行う者であればあん摩の特徴をどうやって患者さんに言葉で伝えていくのか。そのための言葉は、相手の理解できる言葉で、かつ解剖学や生理学という専門的な内容もわかりやすく含めて伝えられるとよいでしょう。

また、ふれることの効能、効果は心理学を研究している先生方も著書に記しています。そのような本を読み、理解することも必須だと感じます。

ふれることを別の角度から捉えなおす書籍5選

手の治癒力,山口創,草思社
人は皮膚から癒される,山口創,草思社
子供の「脳」は肌にある,山口創,光文社新書
皮膚感覚と人間のこころ,傳田光洋,新潮選書
手に映る脳,脳を宿す手:手の脳科学16章,砂川融(翻訳),医学書院

加えて、自らの手を通して相手によくなってもらいたいという熱量をどうやって伝えていけばよいでしょうか。振り返ると、小さい頃にお婆ちゃんの肩を揉んだり叩いたりしたことがありますよね。

逆説的になりますが、幼い子どもが肩をたたくときに解剖学の知識は必要でしょうか。無垢なゆえに純粋な想いで「相手に楽になってもらいたい」とそれだけの気持ちだったのではないでしょうか。

それを故浪越徳治郎氏は「母ごころ」とひと言で言い表しました。
母親が子どもを思う心、または子どもが母親を思う心ともどちらにも解釈できます。自分にとってかけがえのない存在に指圧をするというのが徳治郎先生の本心だったと思います。

徒手療法は道具を使わずに手指のみで相手にふれて行う施術です。手から伝わるもの、手で行うからこそできることは何かを考えつつ、日々の施術に邁進していくことを肝に銘じてまとめとさせていただきます。

<参考および引用文献>
季刊あとはとき第3号,アルテミシア
厚生労働省・医業類似行為に対する取扱いについて
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/i-anzen/hourei/061115-1a.html
令和3年(行ツ)第73号 非認定処分取消請求事件
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=90902
一般社団法人日本リラクゼーション業協会ガイドライン
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/relaxationguideline.pdf

<ライターProfile>
name :神田浩士(かんだ ひろし)
保有資格:あん摩マッサージ指圧師、鍼灸マッサージ教員資格

【得意分野】
・指圧をはじめとする徒手療法による施術
・徒手療法(マッサージ、指圧等)の教育指導

【略歴】
日本指圧専門学校卒業。専任教員として奉職したのち、訪問マッサージ会社に勤務し在宅医療の現場を経験。
機能解剖学、生理学に基づく知見をベースとして、最小限の刺激によって当人の自己治癒力を高め、健康を回復させる施術を行う。
大学時代に始めた競技ダンス(社交ダンス)にも注力的に取り組んでおり、現在は高円寺にて「手あて指あつ処 あい治療院」を開業。
メディア発信やオンラインサロンを活用した後進の育成にも力を注いでいる。

note(SNS)|徒手療法と社交ダンスに思うこと
https://note.com/kinbousui

てあてのたまご|一人ひとりをしっかりフォローします
https://enabeauty-ai.com/therapist

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