【第二回】公認心理師が解説!からだケアのための”こころケア”

<第二回>
痛みやストレスに対する
付き合い方を考えよう

前回のおさらい

前回、体の痛みや不調に対するストレスなどに対して、どのような心理学の理論を用いて心をケアしていくと良いのかというお話の中で、心理療法の1つとして認知行動療法というものがあることをお伝えしました。
(前回のコラムはこちら:【新連載:公認心理師が解説!からだケアのための、こころケア】

認知行動療法とは

皆さんは、認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy; 以下CBT)という心理療法について耳にしたことがあるでしょうか。認知行動療法とは、その名の通り、人間の認知(頭の中の考えや気持ち)や行動に心の状態が表現されていると捉え、それらを扱ったり介入したりする心理療法のことを指します。

この認知行動療法の中には、第一世代から第三世代の3つの心理療法が含まれていると言われています。第一世代は、行動に介入する行動療法。第二世代は認知に介入する認知療法です。これらの第一・二世代のCBTは問題行動や不安などの「不快な思考、感情を減らし、問題行動を減らす」ことを目的としています。

つまり、痛みやストレスにおきかえると、痛みによるストレス、もしくは痛みの原因となっているようなストレスが小さくなるようにストレスを上手に発散したり、コントロールしたりすることを目的としていることが言えます。いわば私たちが普段からよくやっている方法とも言えるかもしれません。

第三世代の認知行動療法
Acceptance and commitment Therapy

そして1990年代に、第三世代のAcceptance and commitment Therapy(以下ACT)というものがCBTの中に新しく加わりました。ACTは第一・二世代のCBTのように、「不快な思考や感情を減らす」ことに重きを置いていません。「不快な思考や感情を無理に減らそうとせず、うまく付き合いながら自身にとって意味のある機能的な行動をとる」ことを目的としています。

ACTは「避けられない痛みは受け容れながら有意義な人生を切り拓く手法」とも言われています。「避けられない痛み」とは、生きている限り必ず経験をする不快な思考や感情を指しています。
前回紹介したストレスというのは避けられるものではなく、それに伴う身体の痛みや不調も種類によっては避けられるものではないかもしれません。このようなストレスやそれに伴う痛みなどがあれば不快に感じるため、それらを避けよう、忘れようとすることは自然なことであり、悪いことではありません。しかし、避ける、忘れるという作業には一定の労力が必要になります。

ストレスを遠ざけようとするほどストレスが増す

例えば、私が今「紫色の羊について一旦思い浮かべてください、そして、今度は1分間、その紫色の羊を絶対に思い浮かべないでください」というとどうでしょうか?ぜひ実際にやってみてください。思い浮かべてと言われるまでは考えもしなかった紫色の羊なのに、思い浮かべないでと言われた途端に、妙に思い出してしまいませんか。もしくは、一度も思い浮かべずに済んだとしても、かなり労力を使ったのではないでしょうか。

ストレスの話に置き換えてみましょう。嫌なことがあったので美味しいものを食べて、発散してストレスを忘れてしまおうとした。その日は良かったけど、また思い出してしまう…。そんな経験がみなさんあるのではないでしょうか。そして、その努力で苦痛が小さくなったとしてもそれは一時的だとも言われているのです1)。このような行為を続けてしまうと、ストレスが伴う場面では、うまく発散したりしてストレスを必死になくそうとすることばかりが習慣化されてしまいます。しかしながら、長期的な苦痛はなくなることはなく、むしろ増大するため、ストレスは解消されることなく、より蓄積され、身体の不調や痛みの悪化につながってしまいます。

さまざまな慢性疾患に期待ができるACT

その苦痛を無くしたり、回避したりする行動をとる(体験の回避)ことを一旦手放し、自分の大切にしていきたいこと(価値)を明確にし、それに向けて行動を進める手法だと言われるこの第三世代のACTがCBTの中でも、ストレスに伴う身体の不調や痛みなどに寄与する可能性が高いのです。実際、ACTは、慢性疼痛に止まらず、糖尿病、肥満などの慢性疾患の分野においても効果が示されているため2)、こちらの記事を読まれる痛みを持つ方や、慢性疾患による痛みがある方への適用も十分可能でしょう。エビデンスもありながら、現実生活にもフィットした方法だと思うからこそ慢性的な痛みを持つ方、そしてそのような患者様にたずさわる皆様がACTについて知っていただけたらと思い、今回ACTをご紹介させていただきました。連載の後半でACTの具体的な実践方法などについてもご説明しますので、楽しみにしていてくださいね。

<参考文献>
1)Wegner, D. M.., Schnneider, D. J., Carter, S. R., & White, T. L. Paradoxical effects of thought suppression. Journal of Personality and Social Psychology 1987; 53: 5-1
2)Kim D, Christian L, Ricard W. Acceptance and commitment therapy (ACT) for professional staff burnout: a systematic review and narrative synthesis of controlled trials. Journal of Mental Health. 2023; 32(2): 452-464.

〜次回は2/10(土)配信予定です〜

<ライターProfile>
name :藤本志乃(ふじもと しの)
保有資格:公認心理師・臨床心理士
得意分野:
・Acceptance and Commitment Therapy(マインドフルネス・認知行動療法)
・より良い生き方を軸におくカウンセリング(子育て・女性・働く人)
・慢性疾患をもつ方のカウンセリング
略歴:
教育相談の経験後、腎臓内科にて透析患者のカウンセリングに従事し、慢性疾患患者が疾患をもちながらより良く生きていくための心理的介入に関する研究や講演なども行ってきた。その後、”よりよく生きることを考える”をテーマにLe:selfにて、オンラインでのカウンセリング・マインドフルネス・ACTワークショップなどを行っている。

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