<第四回>
不定愁訴とACT
〜肩こり・腰痛・頭痛などの不定愁訴に対して
どのような効果があるのか〜
前回のおさらい
前回は「避けられない痛みは受け容れながら有意義な人生を切り拓く手法」とであるAcceptance and commitment Therapy(以下ACT)が、関節リウマチ、線維筋痛症、腎不全、糖尿病などの慢性疾患に対してどのように効果があるのかについてお話をいたしました。(前回のコラムはこちら→<第三回>慢性疾患に対するACT (認知行動療法)の意義と治療院でできるトークセッション)
「痛み」の分類 〜一次的苦痛と二次的苦痛〜
今回は、このACTが、肩こり、腰痛、頭痛などの痛みに対してどのように効果があるのかについてお話をしたいと思います。痛みにはいろんな種類があります。雨が降る日には頭が痛くなる、という人もいらっしゃるでしょうし、腰痛が常にあり、日常生活が送りにくいと感じている人もいらっしゃるでしょう。
このような私たちの感じている痛みは、2つの種類があるということが知られています。それは、一次的苦痛と二次的苦痛です。2つは全く異なる原因で起こるものであると言われています。まず、一次的苦痛とは身体に実際に生じる不快な感覚と言われており、怪我・患っている病気、神経系に生じる変調が原因で起こるものです。つまり、実際に存在している痛みであり、脳に送られる生の情報であるとも言えるでしょう。
二次的苦痛はこの一次的苦痛の後にすぐ後に起こり、一次的苦痛を取り巻くさまざまな思考、感覚、感情、記憶からなるものだと言われています。つまり、本来ある痛みというよりは、自分の思考や感情が生み出す痛みであり、全く同等の痛みの程度であっても二次的苦痛の感じ方は人によって大きく違うということが言えます。
痛みの強さと長さを決める”痛みのボリューム調節機能”
また、この二次的苦痛に関連するボリューム調節機能についてもお話ししておきましょう。心、すなわち脳には痛みの強さと、それが持続する長さを決める、ボリューム調節機能が備わっていると言われています。脳は痛みを感じるだけではなく、痛みが伝える情報の処理もしており、その感覚を分析し、体に更なる痛みや危害が及ぶのを避けようとするように出来上がっています。つまり、痛みがあると、その痛みにズームインして、「この痛みはどこからきたのか」ということを詳しく頭の中で調べ始めたり、記憶をたどり、過去に同じように苦しんだ経験がないか探し、どのように対処すると良いのかを検索したりすると言われており、このズームインが痛みのボリュームを強くしているようなのです。
そして、痛みを強くするだけでなく、「治らなければ、この先、いつも苦しむ羽目になるかもしれない、、、」といったような不安などで頭をいっぱいにさせてしまうということも言われています。
この痛みのボリューム調節は何が行なっているのか、というオックスフォード大学の痛みに対する研究があります1)。この研究では被験者に少しだけ不安を感じさせた上で左手の甲に熱を加えると、被験者の脳に感情の波が広がっていく様子が見られることを示しています。つまり不安などの感情があると危険に備えるために、脳が痛みを感じるボリュームを上げて痛みを感じる準備をしっかりするようになるということがわかっているのです。また、痛みがあるとすぐに過去と照らし合わせ、うまく対処できなければ大変なことになってしまうかもしれないという未来の不安とリンクさせる。毎回このルーティーンを続けていると、痛みが出るたび、脳はそのような動きをするようになります。そうすると、脳が最悪の苦痛を避けようとして、ちょっとした痛みでも見逃さないように、痛みを早く強く感じるように変化していくのです。つまり、脳が痛みを感じることが上手になっていくということなのです。
頭痛・腰痛・肩こりはもはやマネジメント(管理)できる。それが”Acceptance”
この二次的苦痛に関わる心理的要因を上手にマネジメントできることで、頭痛・腰痛・肩こりなどにまつわる痛みは大きく軽減される可能性があります。その方法として挙げられるが、これまでもご紹介してきたAcceptance and Commitment Therapy(以下ACT)です。
ACTの介入は「不快な思考や感情と上手に付き合うための介入(=Acceptance)」と「自身の大切なことに向かって行動を進める(Commitment)」という大きく2つに分かれており、前回は主にCommitmentの方に焦点を当てたお話をいたしました。もちろん、前回同様に、自身の大切なこと=価値を引き出すことで痛みと上手に付き合うことができるようになる要素の一つとなると考えられますが、今回はAcceptanceの方にも少し焦点を当ててみていきましょう。
Acceptanceとは上述のとおり、不快な思考や感情と上手に付き合う、受け入れるための方法になります。私たちは痛みがあると、不快な思考、例えば「痛みのせいで大変な病気になってしまうかもしれない」と考えたり痛みがあることでの「不安」などの感情が出てくることがあり、それらとどのように上手に付き合っていくかということが痛みの二次的苦痛を軽減することにもつながるのです。
このAcceptanceの介入には思考と上手に距離を取ったり、感情を自分の中に上手にいられるようにしたりするための様々な方法がありますが、皆さんが耳にしたことのある方法として「マインドフルネス」というものが挙げられます。
マインドフルネスとは“全意識をもって今この瞬間に目を向けること”。呼吸に意識を向けることでも良いですし、歩いているとき、食べているときなど、日常の様々な行動1つ1つにしっかりと意識を向けて行動をするだけでもこのマインドフルネスのトレーニングになると言われています。実際、マインドフルネスによって、痛みの元になる脳の活動パターンが抑制され、脳自体の構造が変化してくることで、これまでのような強い痛みを感じなくなり、痛みに振り回されにくくなることが研究で示されており2)、また腰痛などの慢性的な痛みの症状に苦しむ人の気分や生活の質が改善することも示されています3)。
つまり、頭痛、腰痛など何らかの痛みのある方は、マインドフルネスを始めてみることで、自身の思考や感情と上手に付き合うことができるようになり、二次的苦痛が軽減されることで本来の痛み以上の痛みを感じることなく過ごすことがでるようになる可能性が高いということが言えますね。苦痛をAcceptするための方法としてのマインドフルネス、よろしければぜひ始めてみてくださいね。
<マインドフルネス実践のための音源>
(参考文献)
- Zeidan, F., Martucci, K. T., Kraft, R. A., Gordon, N. S., McHaffie, J. G., R Coghill, R. C. (2011). Brain mechanisms supporting the modulation of oain by mindfulness meditation. Journal of Neuroscience, 31(14), 5540-5548.
- Brown, C. A., & Jones, A. K. (2013). Psychobiological correlates of improved mental health in patients with musculoskeletal pain after a mindfulness-based pain management program. Clinical Journal of Pain, 29(3), 233-244.
- Morone, N. E., Lynch, C. S., Greco, C. M., Tindle, H. A., & Weiner, D. K. (2008). “I felt like a new person” – The effects of mindfulness meditation on older adults with chorionic pain: Qualitative narrative analysis of diary entries. Jornal of pain, 9, 841-848.
<ライターProfile>
name :藤本志乃(ふじもと しの)
保有資格:公認心理師・臨床心理士
【得意分野】
・Acceptance and Commitment Therapy(マインドフルネス・認知行動療法)
・より良い生き方を軸におくカウンセリング(子育て・女性・働く人)
・慢性疾患をもつ方のカウンセリング
【略歴】
教育相談の経験後、腎臓内科にて透析患者のカウンセリングに従事し、慢性疾患患者が疾患をもちながらより良く生きていくための心理的介入に関する研究や講演なども行ってきた。その後、”よりよく生きることを考える”をテーマにLe:selfにて、オンラインでのカウンセリング・マインドフルネス・ACTワークショップなどを行っている。
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