【最終回】公認心理師が解説!からだケアのための”こころケア”

<最終回>
私たちが「より良く生きていく」ための
心の在り方

前回までのおはなし

ここまで、連載をお読みいただいたみなさま、ありがとうございます。
あっという間に第6回、今回で最終回となります。

今回まで、心理学の1つである認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy; 以下CBT)の中のAcceptance and commitment Therapy(以下ACT)という理論をベースにしながら、リウマチや腎不全などの慢性疾患、肩こりや頭痛などの痛み、PMSや更年期障害などの女性特有の症状についてどのように心をケアできるのかというお話をして参りました。

この最終回では、これらを総合し、私たち人間がよりよく生きていくための心の在り方についてお話をして参りたいと思います。

避けられない苦痛は受け容れながら有意義な人生を切り拓く

私たちは、生きる中で何らかの「苦」を感じると、どうにかして、その「苦」を小さくしなければとか、その「苦」を上手に避けた上で、やるべきことに向かわなければと思うかもしれません。

しかし、私たちが生きる現実世界は、このような「苦」と常に隣り合わせであり、全てを避けることは難しいことは皆さん薄々感じていらっしゃるところではないでしょうか。
やらなければいけない仕事、同僚との人間関係、家族のいざこざ、放っておくといくらでも「苦」が訪れることもあるでしょう。

しかし、仏教やACTのベースの考え方などによると、さまざまな場所でこれらの人生における「苦」は避けられないものであると認識されており、避けるという作業には労力が伴うことがわかっています。その上、その労力で「苦」が小さくなったとしてもそれは一時的だとも言われているのです1)

ここまでベースの理論としてご紹介してきたACTは「避けられない苦痛は受け容れながら有意義な人生を切り拓く手法」とも言われています。

避けられない苦痛とは、生きている限り必ず経験をする不快な思考や感情を指します。
つまり、簡単に言うと、コントロールが難しい思考や感情をコントロールしようとすることをやめて、自分の生きたい人生に歩みを進めようということです。
このような心の在り方のことをACTでは「心理的柔軟性」と呼んでいます。この心理的柔軟性を身につけるための介入は図に示した通り、「オープンになる」「今、ここにいる」「大切だと思うことをする」の大きく分けて3つのポイントに分けられます。

①オープンになる

1つずつ見ていくと、「オープンになる」とは思考や感情とうまく距離を取ったり、うまく自分の中に置いておいたりするスキルを身につけていくことで得られる状態です。

より良い人生に行動を進めるために思考や感情にオープンになるという意味合いです。

第五回でご紹介した「脱フュージョン」という手法で思考と上手に距離を取ったり、体に現れる感情をしっかり観察することで、不安や怒りなどさまざまな感情を自分の中に置いておける「アクセプタンス」の練習を継続することで、思考や感情を無理にコントロールしようとしたり、追い出したり避けたりすることなく、上手に付き合うことができるようになると言われています。

②今、ここにいる

「今、ここにいる」とは、その名の通り、今この瞬間の外側の様子や内側の様子にしっかりと気づいていることです。

私たちは、頭の中でついつい過去や未来に思いを巡らしてしまい、より良い人生のために行動を進めることができなくなってしまうことがあります。これらに対しては、「マインドフルネス」が役に立つと言われています。

第四回でご紹介した通り、呼吸に意識を向けることでも良いですし、歩いているとき、食べているときなど、日常の様々な行動1つ1つにしっかりと意識を向けて行動をするだけでもこのマインドフルネスのトレーニングになると言われており、これらをやはり継続していくことで脳の状態が変化していくことが言われています。

③大切だと思うことをする

そして最後に「大切だと思うことをする」

これは、生き方、人生の指針になるコンパスのような、自分の進みたい方向を示すもののことです。
私たちは、この現実世界を日々生きていると、つい社会の望ましい方向や相手の望むことに自分を合わせすぎてしまい、自分がどんな人生を生きたいと考えていたのかを見失ってしまうことがよくあります。
これは、あなた自身が現実世界にしっかり適応して過ごしていこうと頑張っている証拠でもあるのですが、一方で、さまざまな辛い考えや感情を生み出す原因ともなっています。

第三回で「価値」という言葉を使ってご紹介した通り、自分はどんなことをするのが好きだったのか、どんなことにやりがいを感じるのかなどを一度考えて見ることで、ご自身の「大切だと思うこと」を明確にし、そこに一歩ずつ歩みを進めていくことこそが、より良く生きるということへの第一歩になることでしょう。

最後に

このような、『より良く生きることを発信していくこと』を「価値」としながら活動している筆者としては、今回、このような機会をいただき、大変ありがたく思っております。
今回の記事、そして連載を読まれた皆様が少しでも健やかに、そしてより良く生きていかれることを心より願っております。

<参考文献>

1)Wegner, D. M.., Schnneider, D. J., Carter, S. R., & White, T. L. Paradoxical effects of thought suppression. Journal of Personality and Social Psychology 1987; 53: 5-13

<ライターProfile>

name :藤本志乃(ふじもと しの)
保有資格:公認心理師・臨床心理士
【得意分野】
・Acceptance and Commitment Therapy(マインドフルネス・認知行動療法)
・より良い生き方を軸におくカウンセリング(子育て・女性・働く人)
・慢性疾患をもつ方のカウンセリング
【略歴】
教育相談の経験後、腎臓内科にて透析患者のカウンセリングに従事し、慢性疾患患者が疾患をもちながらより良く生きていくための心理的介入に関する研究や講演なども行ってきた。その後、”よりよく生きることを考える”をテーマにLe:selfにて、オンラインでのカウンセリング・マインドフルネス・ACTワークショップなどを行っている。

【藤本先生の主催するカウンセリングルームについて】

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