地元墨田の”あはき” を引っ張る下町の姐御
地域に根ざした鍼灸院
墨田区向島で開業し、早20数年。
店を構え、地元に根づき、長期経営を為すことは決して簡単なことではない。
下町の風情を残しつつもスカイツリーの開業以来、にわかに再注目されつつある向島〜曳舟エリアで松永治療院を開業し、墨田区はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧師会の会長も務める松永公子(まつなが きみこ)先生。
地元密着の開業スタイルと業界団体を通じた地域行政参画や地域活動への貢献がライフワーク。
今日も”下町の姐御”は、気持ちのこもった鍼と灸で墨田を元気にするツボに活を入れていく。
基 本 情 報
氏名 | 松永 公子(まつなが きみこ) |
治療院名 | 松永治療院 |
住所 | 〒131-0032 東京都墨田区東向島2-10-13 |
最寄り駅 | 東武スカイツリーライン・東武亀戸線 曳舟駅 徒歩5分 京成押上線 京成曳舟駅 徒歩7分 メトロ半蔵門線・都営浅草線 押上駅 徒歩7分 |
営業時間 | 午前 9:00〜12:00 午後 15:00〜19:00 定休日 水曜午後/日曜/祝日 |
保有免許(国家資格) | あん摩マッサージ指圧師/はり師/きゅう師 |
メニュー ・ 料金体系 | <初診料> 1,000円 <はり・きゅう> 20分 1,700円 40分 3,400円 60分 5,100円 <マッサージ> 20分 1,800円 40分 3,600円 60分 5,400円 |
出張・訪問について | 健康保険利用による訪問施術 & 自費診療による出張施術 ともに対応可能 対応可能時間:営業時間に準ずる 対応エリア:原則として墨田区内 ※遠方の場合は応相談 ※費用等の詳細は直接お問合せ下さい |
お問合せ先 | 電話番号 03-5630-8588 公式ホームページ http://kimhari.style.coocan.jp/index.html |
AHAKI BASEでは施術所の情報だけではなく、施術者自身にフォーカスし、
もっと施術者自身を知ってもらいたいと考えています。
先生方の考え方・価値観などを<キャリア・経営・施術>の3つの視点で掘り下げて参ります。
1)キャリアについて
Q:今までのご経歴を教えて下さい
松永先生
1996年に国際鍼灸専門学校を卒業し、はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧師免許を取得しました。在学中から数年、故 芹沢勝助先生に師事し、卒業後すぐに自宅開業しながらテニスのトレーナー活動も同時に開始しました。
2000年に墨田区向島で物件を借りて開業し、2015年に現在の東向島の店舗に移転し現在に至ります。
2022年から墨田区はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧師会会長、2023年からは東京都はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧師会の理事を拝命しております。
Q:この仕事を選んだきっかけはなんでしょう?
松永先生
短大を卒業後、就職をし、OLをしばらくしました。男性が多く、女性はお茶汲みと電話番みたいな典型的な昭和の会社。どうにも面白くないので会社を辞めました(笑)
テニスは昔からやっていて、会社を辞めた後はテニスコーチのバイトをしていたんですが、正直カラダがしんどい。その頃、結婚・出産・離婚と経験しますが、「歳を取っても続けられる仕事」と「手に職がつく仕事」がいいと考えたんです。
それで、資格を取ろうと思って調べていたら、たまたま「はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧」が目についた。さらに偶然、知り合いが国際鍼灸の学生だったので話を聞いて、免許の必要性を感じて、そのまま国際鍼灸に入学しました。墨田から近いということもありましたね。
(※国際鍼灸専門学校は葛飾区青砥)
Q:芹沢勝助先生1)と言えば鍼灸界では大変著名な方。師事されていたのは大変貴重な時間でしたね。
松永先生
在学中の3年生の時に、芹沢先生の臨床研修生で入りました。当時はすでに募集は締め切られていたけど、無理くり電話して(笑)。最初は断られました。でも、欠員が出て、入れることになったんです。週2で授業が終わった後に通いました。
1)芹沢勝助先生:1915~1998、日本の鍼灸師として初めて医学博士を取得、元筑波大学名誉教授。筋肉への鍼刺激の効果を西洋医学的に詳らかにしようと数々の研究・著書を編纂した日本鍼灸の第一人者。
Q:芹沢先生のところではどんなことを?
松永先生
私たちはまだ免許も持ってませんし、先生の所では使う鍼の数が多かったんです。1人50本くらい使ってました。だから、鍼を抜いて、オートクレーブでひたすら消毒(笑)
あとは掃除や雑務でしたけど、あの研修期間中に患者さんへの対応はすごく学べましたね。当時、鳥海先生2)も一緒に臨床研修してました。
芹沢先生の治療院では東洋医学的に証を立てたり3)とかはなく、もっとわかりやすい指標として血圧をよく見ていました。陰は三陰交と陰稜泉、陽は手三里・足三里、うつ伏せの場合は曲池・背部兪穴・委中というように手や足、体勢によって基本経穴が決まっていたんです。そこに筋肉をめがけて通電するやり方でした。
昔、誰かが芹沢先生に「どうして鍼が最初でお灸があとなんですか?」と質問したことがあったんです。そしたら先生は「だって、はり・きゅうって言うだろ?だから鍼が先で、灸が後なんだよ」と(笑) とにかく講義が面白い先生でした。
2)鳥海先生:鳥海春樹先生。医社)健育会 湘南慶育病院 鍼灸科部長 兼 鳥海鍼灸院 院長。
東京都はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧師会主催の講習会など、「コリ」に関する多くの研究と講演をされている。参考動画→https://www.youtube.com/watch?v=q9dNdYBrYxs(都師会令和4年度第4回東京都委託施術者講習会)
3)証を立てる:東洋医学における治療方針の立て方。患者の脈や腹部、舌の形状などから患者の病態を推測していく
Q:芹沢先生のところで研修したあとはどうなさったんですか?
松永先生
東中野にあった別の治療院で2年半くらい勤務しながら自宅開業もしたんです。私がテニス関係の仕事がしたいと言ったら、芹沢先生が森山先生4)というスポーツ関係に詳しいお弟子さんの先生を紹介してくださった。「テニスやってんだから」みたいな感じで。その森山先生が東中野の治療院を紹介してくれたんです。そこには松本先生5)もいらっしゃいました。森山先生とのご縁がきっかけで段々とテニスの大会に帯同させてもらえるようになってきた。
4)森山先生:森山朝正先生。筑波技術大学鍼灸学教授。バルセロナ五輪等の公式トレーナーも務め、東洋医学・鍼灸学の権威とも呼ばれる。https://researchmap.jp/read0037527
5)松本先生:松本毅先生。千葉大学柏の葉鍼灸院院長。
ヨモギとモグサに関する研究多数。都師会での令和5年度第7回東京都委託施術者講習会にてお灸についてのご講演予定。詳細はこちら→http://tokyo89am.or.jp/info/20240121selfcare
Q:スポーツトレーナーとして働きたいと進学する人も多いです。ですが、実際にはそういう繋がりがないと難しいとも言われますよね?
松永先生
私はそういう繋がりがあったから、テニスの全日本選手権やジャパンオープンなどにも帯同させてもらえることができました。以前、母校である国際鍼灸専門学校で講演させてもらったことがあるんですが、最初頼まれた時は「開業の話をしてくれ」と言われたんです。私は「生徒さんたちはスポーツ現場の話も興味あるんじゃないですか?」と聞いたんですが、そんなものはいいと。で、結局、開業の話をしたんですが、生徒さんからはやっぱりトレーナーの話が聞きたかったという感想が多かったみたいです。
Q:スポーツトレーナーになるにはやはりコネですか?
松永先生
やはりコネクションが強いと思います。私の場合はテニスでしたが、それぞれで得意な分野・競技があると思います。その繋がりを作る・使うのが一番近道ではないでしょうか。やっぱり知らない競技には入って行きづらいと思います。あとは自治体が主催のボランティア活動もいいかもしれない。
Q:ボランティア活動ですか?
松永先生
私は今度、墨田区で行われるボクシング大会のボランティア活動に行きます。墨田区のスポーツ振興課が区内のスポーツイベントでのボランティアを公募していたんです。全然、鍼灸マッサージに関係ないボランティア活動なんだけど、何かきっかけが作れるかもしれない。これは個人としてもそうだし、墨田区はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧師会(墨師会)としても輪が拡がるかもしれない。こうやって少しずつ様々な分野や団体とコネクションを作っていくことが大事だと思っています。
Q:ボランティアは地域とのつながりにもなりますね
松永先生
以前、「スポーツと災害での応急手当」をテーマに墨田区で行われたイベントでは拓殖大学の先生がご講義なさっており、墨師会での公開講座も依頼しようと考えています。地域に根ざして事業を行うのであれば、こうした繋がりを地域へ還元して、貢献していくことも重要です。
2)経営について
Q:治療院の経営理念・コンセプトを教えてください
松永先生
患者さんが快適な生活を送れるようお手伝いをさせて頂くことです。ゆったりとした空間で、くつろげる音楽を流しながらじっくりと施術させて頂くことがコンセプトですね。私自身もピアノを弾くので、治療院にもピアノが置いてあるんですけど、ゆくゆくは治療院でジャズピアノのプチライブとかやってみたいですね(笑)
Q:先生の治療院では鍼・灸のコースが比較的安価と感じたのですが、どのように考えて価格設定を?
松永先生
最初に開業した時はとにかく受けに来てもらわなきゃいけないし、療養費も取り扱ってなかったから安く設定してたんです。1時間¥3000とか。で、患者さんにも「もう少し上げたら?」と言われていたし、だんだんと上げていったんです。
Q:広告や宣伝など集客はどうなさっていますか?
松永先生
ウチは昔からクチコミですね。一応ホームページはあるけど、基本的にクチコミ。で、ずっと来てくれてる。ありがたいことです。あとは墨田区の三療券6)利用で来てくれる患者さんも多いですね。
6)墨田区三療券:墨田区が在宅で介護をされている家族への慰労助成制度として発行している「はり・きゅう・マッサージ券」。(墨田区公式ホームページ:https://www.city.sumida.lg.jp/kenko_fukushi/koureisya_kaigohoken/netakiri_nintisyou/irou_zyosei.html
各自治体でこのような助成制度を行なっている所もあり、墨田区の場合は墨田区はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧師会または墨田区鍼灸師会への加入が必要。
Q:開業当初の苦労話などありますか?
松永先生
最初は患者さんもいないし、当時はネットも今みたいに盛んじゃないし、でも自分1人で人件費はかからないし、借りてた物件の家賃さえ払えればって感じでした。息子が保育園に通っていたので、その保育園の先生たちを治療させてもらっていました。そのクチコミで広げてくれました。地域のコミュニティのおかげです。ウチではコロナ禍になるまでずっと、お抹茶を立ててお出ししてたんです。そのお抹茶とお茶菓子が好きで来てくれる人もいましたね、手技が下手でも(笑)
とにかく出来ることはなんでもやるって感じです。おかげでお茶を立てるのも上手になりました(笑)
Q:お抹茶のおかげだけではないと思いますが、、、(笑)
松永先生
(笑)
でも、一番は子どもがいたから頑張れたということですね。守るものがあると頑張れます。
Q:今後の目標はありますか?
松永先生
去年から墨師会(墨田区はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧師会)の会長をさせて頂いてますので、もっと会の普及がしたいですね。墨田は元々、1948年に「向島はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧師会」として発足して70年以上の歴史がありますが、多くは視覚障害の先生方がその歴史を紡いで来られました。今でも現役でお仕事をなさっている先生もいらっしゃいます。しかも、墨田区には”杉山検校遺徳顕彰会”7)があります。そういった意味では、はりきゅう按摩の聖地みたいな土地柄です。行政にも働きかけて、青眼者も視覚障害者も合わせて墨田区の鍼灸マッサージを盛り上げていきたいですね。
7)杉山検校遺徳顕彰会:公益財団法人 杉山検校遺徳顕彰会。日本における鍼灸・手技療法の中興の祖、杉山和一検校が鍼・按摩技術の取得、教育を主眼として、世界初の視覚障害者教育施設「杉山流鍼治導引稽古所」を開設したのが本所一つ目、現在の墨田区千歳である。顕彰会では杉山和一検校を顕彰し、併せてこの分野における歴史的文化財の維持ならびに学術の興隆と普及を図り、さらに多くの皆様の健康維持増進に寄与することを目的としている。(公式ホームページ抜粋:https://sugiyamawaichi-kengyou.com/)
3)施術について
Q:鍼・灸・あん摩マッサージ指圧で主に使うのはどの施術方法ですか?
松永先生
私は基本的には鍼治療がメインです。手技よりも鍼とお灸が多いです。
在学中に具合を悪くし、横田観風先生8)の鍼治療を受けたことがあり、興味が湧いて横田先生の勉強会にも参加しました。横田先生のような鍼治療をしたいとは思っています。でもベースは芹沢先生流ですね。どちらかと言うと手技よりも鍼が好きです。
8)横田観風先生:鍼灸師、湯液と鍼灸による癒しを日本的なる道に高めた「日本的ないやしの道」を創成し、医師・薬剤師・鍼灸師などを指導した。1998年4 月「いやしの道協会」を設立し、特に鍼灸を中心とした「日本的ないやしの道」の指導をしている。(いやしの道協会ホームページ抜粋:https://iyashinomichikyokai.com/about.html#7)
Q:施術の流れを教えて下さい
松永先生
初診の方には予診票の記入から問診まで結構時間をかけます。一番辛いところや患者さんのライフスタイルなども伺っていきます。最初はあまり強い刺激を入れないようにします。人によっては1時間¥6000前後だと高く感じる方もいますので、20分¥1700などの短い時間を試してもらって段々長くしていったり。症状によっては療養費(健康保険)の利用も提案したり、クリニックを紹介することもあります。接骨院や整骨院で保険で安く施術を受けることに慣れている人にはキチンと制度の説明もします。近くに連携の取れるクリニックを作っておくことも地域で開業するには大事ですね。
Q:治療で特に大事にしていることはなんでしょう?
松永先生
来た時よりも楽になって帰ってもらいたいですね。
あと1本1本の鍼の響きを感じる、感じてもらうことも大事にしています。
Q:受けている側は響きを感じることはよくありますが、施術者側も鍼の響きって感じるものですか?
松永先生
感じますね。厳密に言うと、感じる時と感じない時がありますが。手元にジンと来る感じがあります。もちろん手元だけでなく患者さんの表情や緊張などのリアクションを見ることも大事です。その反応を見ながら加減して施術します。
Q:多くのアスリートやスポーツ愛好家の方々を診てこられたと思いますが、そのような方達への施術で気をつけている部分や意識することはありますか?
松永先生
試合スケジュールを考慮して、パフォーマンス向上が必要なのか、ケアが必要なのかを見極めながら施術します。それはアスリートだけじゃなくて、みなさん同じですけどね。旅行があるとか、大きな仕事があるとか、何かイベントがあるのは皆さん同じですから。
Q:施術の加減はもちろん患者さんによって違うし、同じ患者さんでも日によって違います。こちらが最適解と考えた施術も、受け手によっては異なることもある。それがこの仕事の難しさであり、面白さでもあると思いますが、先生はどのようにお考えですか?
松永先生
そうですね、この人に合ったやり方が、別の人に合うわけではない、というのがありますよね。それは鍼灸・マッサージだけでなく、医療全般に言えることでしょうし、世の中の物事全てに言えることですよね。だから会ってみて、触れてみて感じるものを大切にしています。我々の世界は全員が全員同じ施術ではないので、それが広まりづらい理由かとも思いますが、一方でそれぞれの個性が出ることが良い点なのではないでしょうか。自分に出来ることをしっかりやれば患者さんには伝わるし、わかってくれるものだと思います。
編 集 後 記
墨田区はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧師会の会長でもある松永先生の取材をさせて頂きました。先生のエピソードからは鍼灸業界の大物の先生方のお名前が次々に出てきてビックリ。
地元で自宅開業し、地域のコミュニティを活かしながら少しずつ治療院を大きくしていくという、開業あはき師のスタンダードモデルのような開業スタイルです。
業団としても地域との連携、他会との連携、都道府県師会との連携など、色々な場所に顔を出し、輪を広げていくというとてもパワフルなエネルギー持つ先生。
1人1人の患者さんに対して、その日その時の様子と加減で施術をしていく所に、単なる作業ではなく、気持ちのこもった職人気質ないい仕事を感じました。お忙しい中、ご対応頂き有難うございました!