<インタビュー:精神保健福祉士 栗山直也氏>認知症と地域医療連携〜あはきへの期待〜         

我が国の認知症対策は喫緊の課題と言っても差し支えないだろう。
2012年の認知症有病者数は約462万人、2025年には約700万人とも予想されている。

国レベルだけでなく、各市区町村といった地域レベルでの支援体制・仕組みの構築が進められており、各都道府県や各政令指定都市から指定された病院に、認知症に関する専門的な検査・診断・症状への対応・相談などを行う認知症疾患医療センターが設置されている。

今回は墨田区の医療法人社団 仁寿会 中村病院 認知症疾患医療センター専従相談員である精神保健福祉士 栗山直也さんに認知症と地域医療連携の実情や、我々あはき師がどのように認知症ケアに地域医療の1つとして携わっていけるのかを伺った。

上手な認知症との付き合い方は
上手な「人と人」とのお付き合い

ー 認知症について簡単に教えて頂けますか?

栗山さん
認知症とは、いろいろな原因で脳の細胞がしんでしまったり、働きが悪くなったためにさまざまな障害が起こり、生活するうえで支障が出ている状態(およそ6ヶ月以上継続)をいいます。

中核症状としては、
記憶障害(物事を覚えていられなかったり、思い出せない)
実行機能障害(計画や段取りを立てて行動できない)
理解、判断力の障害(考えるスピードが遅くなる、家電やATMが使えなくなる)
見当識障害(時間や場所、人間関係が分からなくなる)
があります。

物忘れがあるだけで認知症を疑う方もいらっしゃいますが、物忘れだけでは問題にならないことが多いです。物忘れに伴い、日常生活にトラブルがあれば相談して頂きたいと思います。
詳しく検査をしてみたら、実は認知症ではなく、その他の身体的・心理的トラブルである可能性(例:うつ病・水頭症・慢性硬膜下血腫など)もあり、認知症ではなかったとしてもそのまま放置してはいけないケースもあることは知っておいてほしいです。

認知症の初期症状や、自分が認知症かどうかの見分け方・認知症を疑った場合の対応を教えてください

栗山さん
初期の方は物忘れのエピソードが多いです。誰しも無意識の中で、物事を覚えようとなると繰り返し繰り返し行っていることがあります。何度も何度も言葉に出したり、行動することで周囲の方がその言動や行動を受け止めきれなくなってから相談に来るケースが多い気がします。
物忘れ症状が認知症ではなく、実は他の疾患だったということもあります。日常生活に支障をきたしていたり、ご本人が物忘れについて不安を感じているのであれば、一度正しく検査をした方が後々、良い関係を築けると思います。

受診のタイミングは本人の意志も重要ですねまずは話をしてみたい・相談したいといった場合はどうすればいいでしょうか?

栗山さん
まずはお住まいの地域の【地域包括支援センター】に相談されるといいですね。ですが、ご近所に知られることを憂慮される方もいらっしゃいます。その場合は認知症疾患医療センターの物忘れ外来を利用されるといいと思います。
(※全国の認知症疾患医療センターの一覧はこちら)

受診のタイミングについては、周りの人から行くように言われると逆に本人が嫌がる可能性もあります。認知症は本人が一番早く気づくケースが多いですので、その時に周囲の人が背中を押してあげられるとスムーズに検査が受けられると思います。検査によって「今、頭の萎縮はこれくらい」「今、認知機能はどれくらいか」というように現状を可視化できるので、物忘れは目安がつけやすいです。本人が心配して受診してみたけど、特に何もなければ、「あぁ、よかったね」でいいと思います。
デリケートな問題ですが、相続や希望の治療レベル、延命はするのかどうか、など、今決めておくべきことはなんだろうと、ACP(アドバンスド・ケア・プランニング)を早いうちに実施しておく必要もある。その為には早めに相談、検査をして頂いて安心して欲しいし、対策を立てて頂きたいです。

ー 認知症と診断された場合、本人や家族、周囲の人々の適切な認知症との付き合い方・向き合い方について、栗山さんはどのようにお考えですか?

栗山さん
純粋に「人と人」として接してほしいです。未だに「どうせ忘れるから」「言っても聞かないから」と言った認知症患者さんに対する差別にも似た偏見や先入観が残っているような気がします。忘れてはならないのは患者さん自身の尊厳です。ご本人へも治療方針や処方されるお薬などについて説明・同意がなされるべきですし、日常生活で患者さんが何か失敗した時は周囲の人には暖かく見守ってほしい。一緒に歩んでほしいなと思っています。
ですが一方で、周囲の方のフラストレーションが溜まることも理解できます。認知症だけに限りませんが、病気と付き合うという事は、本人も周囲も我慢しすぎたり、抱え込みすぎたりするものです。吐き出す場、ガス抜きをする場所や時間が必要だと思います。そんな時に当院の相談会を気軽に利用して頂きたいですね。
接し方をお伝えしてすぐ出来るようになれば問題ありませんが、「わかっている、だけどね」という話もよく受けます。今まで長い付き合いもあって、どうしてもうまくできないんだと。患者も周囲もうまくできないのは当然です。『一緒の歩幅で歩こう』という気持ちを一番大切にして頂きたいですね。

ー 本人も家族も吐き出す場がないと辛いですよね

栗山さん
医療機関というと敷居が高く感じるのかもしれません。また、自分達が悩んでいることが「医療従事者にとって、たわいのないことだったらどうしよう」というような不安があるように思われます。敷居を下げ、全ての人が気軽に相談できる空気や場所を作っていきたいと思っており、当院では【もの忘れ相談会】の企画も行っていますのでご興味ある方は是非ご連絡を下さい。

ー 決して治療するだけが支援ではない

栗山さん
支援するって恋愛に似ていると思います。その人の一部分だけを見るのではなく、いろんな方向・いろんな角度から深く知っていく。「『認知症ってこういうイメージ』『精神疾患ってこういうイメージ』という固定観念を持っている」と自分を認識しつつ、その人を見て・聞いて、その人の全体を知っていく。その上で、自分達にできることを提供していく。そして、出来ない所だけを見て怒るのではなく、許してあげる。ダメなところも許してあげる。これって恋愛に似てませんか?恋愛だけでなく、円滑な人間関係には必要な要素だと思います。

ー 認知症の付き合い方は薬やオペでなんとかするものではなく、人付き合いの延長線上にあるものだと感じます

栗山さん
患者さんの担当になったのであればひたむきにサポートしなければなりませんし、患者さんのためにならないことがあるのなら本人を叱らなきゃいけない時もある。それも含めて支援だと思います。客観的に見て、大事に思うからこそ、言うべきことは言わなければならない。聴くだけが仕事ではありません。

困った時のために地域の中で「どこかと繋がっておく」、「誰かと繋がっておく」

ー 精神保健福祉士さんの業務内容を教えて下さい

栗山さん
精神保健福祉士は、精神疾患を持つ人が日常生活を送れるように支援する専門職です。主な仕事内容は、相談、生活支援、助言、訓練、社会参加の手助け、環境調整などです。

略称としてはPSW(Psychiatric Social Worker)とかMHSW(Mental Health Social Worker)とか言いますね。よくPさんと呼ばれることが多いです。
(※2021年から日本精神保健福祉士協会によりMHSWに略されることとなった)

精神面に特化した社会福祉士といった感じで精神科病院勤務の方は多いと思います。その他にも区役所などの行政や就労支援事業所などで働いている方もいます。

ー 精神疾患患者支援にとってはまさに中心になると思われる職種ですね。現在、認知症患者さんに対しては他にどんな職種の人たちが連携していますか?

栗山さん
病院ですと、医師をはじめ、看護師・社会福祉士・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士などがメインですが、関わろうと思えばもっとたくさんの職種が関われると思っています。
地域においては、上記の職種やケアマネなども含め、認知症の支援に携わる方々すべてがチームの一員です。
病院でも地域でも、「誰が一番偉い」ではなく、携わる人全員が「認知症支援の主人公」だとも言えます。

ー 中村病院では認知症疾患医療センターとしてどのような取り組みを行っているのでしょうか?

栗山さん
当院は一般病院なので、精神科の先生はいないのですが、認知症疾患センターを置くために精神保健福祉士を一人は置かなければならないという規定があり、私が担当しています。基本的には外来相談ですが、例えば錦糸町や菊川エリアなど当院から遠いエリアにお住まいの方からご相談を受けた時は、近くの地域包括支援センターに伺ってお話しすることも可能です。

最近では墨田区内の地域高齢者みまもり相談室などでもお話をさせて頂いています。まずは顔を知ってもらって、何かあった時には「中村病院に栗山がいる」と少しでも頭の片隅に入れておいてもらう活動をしています。いろいろな場所に出て行ってみると、今回のインタビューのように新しい繋がりもできるし、あん摩マッサージ指圧師の方と繋がることもある。今年の11月から非常にカジュアルな集まりを開催しようとしています。本当にありとあらゆる、多数の他職種が集まってくれればいいと考えています。

ー どんな人でも参加可能ですか?

栗山さん
はい、医療従事者などの専門職に限らず一般の方でも大丈夫ですし、困ってない方でも参加可能です。大事なのは困った時に相談できる人や場所を作っておくことです。話題がなくてもいいですし、最初から最後までいなくてもいいです。仰々しい会にするつもりはないので、まずはこういう場があるんだ、こういう人がいるんだというのを知ることから始まればいい。地域の中で「どこと繋がる/誰と繋がる」ということを知っておくことが大事かと思います。

ー 困った時に相談し合える繋がりやそれぞれの専門分野でQOLを上げることができる人たちが繋がり合うことが大事ですね。

もっと社会と繋がる医療へ

ー 栗山さんは、あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師という資格や資格者が地域の中で働いているのをご存知でしたか?

栗山さん
はり師・きゅう師については専門学校時代の同級生が資格持ちでしたので、知っていましたし、楽しそうだなぁという印象は持っています。偏頭痛持ちなので受けてみたいです。

あん摩マッサージ指圧師についてはリラクゼーションのイメージが強く、ショッピングモールなどに入っているリラクゼーション店などで働いている印象がありました。正直あまり知らないというのが実際です。

ー 我々、あはき師は医療機関で従事している人も多くはありませんし、自宅で独立開業している方も多いですので繋がる機会が少ないのかもしれません。ですが、はり・きゅう・マッサージの治療院には「病院に行くほどでもないけど、辛い」という方がたくさん来院されますし、病院に比べると敷居の低さがあると思います。地域の中で仕事をする上で、他の医療につなげるという役割も担う必要があると考えています。

栗山さん
正直、患者さんと一番近しい距離にいるのが鍼灸マッサージ師さんではないでしょうか。リハビリの場合、患者さんも「リハビリするぞ」と意気込んでいる方も多いですが、鍼灸マッサージ師さんの施術はリラックスの場。そういうシチュエーションって本音が出やすいので、患者さんの不意に出た本音を拾い上げて欲しい、見逃して欲しくないなと思います。「忘れっぽくなった」という患者さんの言葉に「みんなそうだよ」って言うのは簡単なんですが、そこで一歩踏み込んで「今度検査行ってみない?」と提案してみて欲しいです。

ー 踏み込んで、次のステップに進むよう促したいと思っている鍼灸マッサージ師は多くいると思いますが、繋げる先がわからないと抱えてしまう場合もありそうです。ケアマネさんや担当医などと報連相ができる環境であればいいのですが、、、

栗山さん
みんなが抱えている課題を共有できる場があった方がいいですよね。みなさん専門性があるが故に、専門の部分しか見えないことがある。もっと他職種が集まれる機会があればいいと思い、先に話した他職種相談会(顔馴染みになる為の集まり)を企画しています。
認知症患者ご本人やご家族が抱え込みすぎてしまうという話もしましたが、患者さんや家族だけでなく、我々医療者側も抱え込まずにざっくばらんに話し合える機会を作って、そこに是非、鍼灸マッサージ師さんも参加してもらいたいと思います。

ー 認知症に限らず、それぞれの専門性を活かす為にも、それぞれの専門を知る機会や場が必要だと思いましたし、我々あはき師もそういう機会に顔を出さないと行けないと思います。

<話し手Profile>
栗山 直也(くりやま なおや)
2016年より埼玉県内精神科病院勤務
2017年 精神保健福祉士国家資格取得
2021年 墨田区八広にある医療法人社団 仁寿会 中村病院へ入職
現在、同院 認知症疾患医療センター専従相談員として勤務

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