【第6回】あん摩マッサージ指圧師の手技療法よもやま話

あん摩マッサージ指圧師の
資質向上のためにできること

「学校を出ただけじゃ、メシは食えない」

このような言葉を一度は耳にしたことがあるでしょう。
臨床経験を積んだ先生ほど、そのようなことを仰います。

たしかにその通りです。

鍼灸・マッサージの専門学校はいわば自動車教習所、免許を取ったあとの使い方は本人次第です。取得した免許をどのように使うのか、どうやってその価値を高めていくとよいでしょうか。
今回はそのあたりのことを綴って参ります。

向かう方向を決める

国家試験を終えてぶじに合格すると、免許の登録をしてからあん摩マッサージ指圧師として仕事を始めます。正社員・パートタイム・業務委託などとして雇用されるケースもあります。

どのような就業形態にするかは、その人の生活背景によります。

家族を養っていく必要のある人は、堅実的に正社員の道を選ぶ選択肢もあります。
私自身も過去にその選択をしたことがありました。あん摩マッサージ指圧師(以下、あまし師)はせっかく開業権があるのだから、自分で仕事を始めるのも一つの道です。

ただし、残念なことに専門学校で開業の仕方は教えていないので、自ら手探りでスタートすることになります。

私自身も雇用されている期間のほうが長かった人間です。
その立場を経て思うことは「いずれ開業したいんですが、どうしたらいいですか?」と問われたときに、相手によって答えを変えています。

新卒で専門学校に入学した人であれば、【社会経験を積むこと】が先になります。
治療院にやって来る人の多くは、社会のなかで働いているからです。

反対に、社会経験を積んできた40代、50代以上の方であれば【自分のお客さんを持つこと】を心掛けましょう、と伝えています。それは、雇われていても開業していても同じです。

定年までずっと雇用されて働く場合でも、自分のお客さんを持つことは言い換えると徒手療法を通じてその人の人生を支える覚悟を持つことになります。
業として行うことは継続する意志のうえに成り立ちます。
責任を持ってクライアントさんの健康をサポートする、という心構えを持ちたいものです。開業していたら、自分のお客さんを持つことはそのまま売上にもつながります。

さて、雇用されずに自分で仕事をしていく場合について、私見を述べたいと思います。

専門学校では開業の仕方を教えていないため、すでに開業している人に聞くのですが本当に千差万別です。
開業するために必要な費用や物件の条件などはおよそ決まっていますが、対象とする顧客像まで絞り込むとなれば開業のあり方はさまざまだと思っています。

おなじ免許なのに、これほど多様な業態があるのも珍しいのではないでしょうか。
最たるものは自費の治療院と保険を使った訪問マッサージの違いです。
同じ免許をもって行う施術であっても、その仕事をしていくのに必要とされる知識や施術はまったく違うのですから。

具体的には、訪問マッサージでは高齢者に多い疾病の理解と介護に関する知識を身につけることが必須です。ケアマネとコミュニケーションを図ることも重要になります。自費の場合は施術の特色をはっきりと打ち出して、広く施術を知ってもらうための発信力が必要になってきます。

そう考えると免許を持った段階で、もしくは転職や開業を視野に入れた段階で自分はどのような人を対象に施術を提供していくのかをはっきりイメージすることになります。
つまりそれは、専門性を高めるということに他ならないと思います。

どうやって価値を高めるか

専門学校で身につける手技は基礎中の基礎です。
あん摩、マッサージ、指圧は道具を使わないぶん、自分の身体そのものを道具として用います。
その意味において、徒手療法の基礎は体の使い方を知ることに尽きると考えています。

でもそれは、市場で魚を仕入れたのと同じではありませんか。
そのまま魚を売ったら利益は薄いままです。仕入れた魚(この場合は徒手療法そのもの)をどうやって料理に仕立ててお客さんに提供するか。そのあたりのことを綴ります。

専門性をわかりやすく伝える

身につけたことの価値を高めるひとつの方法は、『わかりやすく伝えること』です。

専門的な内容を、クライアントさんのわかりやすい言葉に置き換えて伝えられること。
ひと言で言えば「伝える力」なのですが、ここで肝心なのはクライアントさんは難しい言葉を知らないということです。

筋肉の名前や働きから始まって、骨格や神経まで含めると難しい解剖学の言葉はたくさんあります。それらをどうやって、わかりやすく、必要なことだけに絞って伝えられるかは施術者の力量に左右されます。

以前、師事したことのある東洋医学の大家の言葉を借りると「小学生にもわかるように」なのだそうです。そういう意味では、自分の施している手技はどんな効果を狙っているのか。施術を受けると日常生活でどのような変化があるか、を伝えて納得してもらうことは大切な要素になります。
SNS全盛のいま、ただ単に押したり揉んだりしているだけでは十分ではない時代だと思います。自分の手技をわかりやすく伝える言葉を持ちましょう。

クリックすると、なりひら治療院さんのブログページ(「すみだjazzフェスティバルに参加してきたおはなし」)に遷移します。

他職種とコラボする

あん摩やマッサージ、指圧というジャンルにとらわれず、もう一歩広い視野で仕事をしていくのであれば、これまでになかった場所へ活動する範囲を広げることも一つのあり方と思います。

地域のマラソン大会であれば、地元の鍼灸師会、指圧師会などがマッサージブースを出店するといった活動をしています。これはある種の認知活動として行うものであり、あん摩、マッサージ、指圧とスポーツは相性のよい組み合わせです。

SHIATSU CAMPという指圧師ユニットをご存じでしょうか。
https://shiatsucamp.com/index.php

彼らは音楽フェスや屋外のイベントに積極的に出店しています。

その活動は予防医療としての施術を提供するとともに、指圧という古臭いイメージを一蹴すべく音楽やイベントと組み合わせることで指圧師としての働き方を提案しているように受け取れます。

自分たちに何ができるかを考えた結果、旧来のあり方に縛られない彼らの活動は指圧そのものの可能性を高めていると言えるでしょう。

かつては、「10年やって一人前」と言われた徒手療法の業界でした。 その実態はいまも変わらないのかもしれません。けれども、SHIATSU CAMPの2人のように自分たちはどんな活動をしていくのかという明確なコンセプトを打ち出すことで、徒手療法が第三者に広く認められていくきっかけになると思います。

あん摩マッサージ指圧師の資質向上のためにできること

これまで述べてきたように、専門性を高めることや他職種とコラボすることはあまし師の価値を高めることにつながります。

業界全体の底上げをしていくにはその道のベテランから学びを得ることが重要だと思います。それには、協会などが主催する講座に参加して知見を得ることもいいでしょう。

個人的にお勧めしたいのは神奈川県あん摩マッサージ指圧師会の主催する講座です。

広く門戸を開いており、学術的な資料も閲覧することができますので、興味のある方はホームページから問い合わせてみてください。
https://kanagawa-shiatsu.com

もうひとつは、出身校の先輩の治療院を訪ねて施術を受けること。

OB名簿などを調べたり、近くの治療院を検索すれば見つかると思います。おなじ手技を続けてきた先生の施術を受けて体感することで、自分では気づかなかった発見があると思います。

私も含めて、あまし師の資格のみを持っている人は、「この紙切れ(免許証)一枚にどんな価値があるんだろう?」と一度は感じたことがあるでしょう。

それは、資格を持った先輩たちもおなじ思いをしてきました。もし、施術をしていて迷っているのであれば、すでに経験している人に話を聞くことで道は開けます。
あん摩マッサージ指圧師という資格に誇りを持ち、多くの人の健康に寄与できる人材が増えることを願って、この文章の締めくくりにしたいと思います。

<ライターProfile>
name :神田浩士(かんだ ひろし)
保有資格:あん摩マッサージ指圧師、鍼灸マッサージ教員資格

【得意分野】
・指圧をはじめとする徒手療法による施術
・徒手療法(マッサージ、指圧等)の教育指導

【略歴】
日本指圧専門学校卒業。専任教員として奉職したのち、訪問マッサージ会社に勤務し在宅医療の現場を経験。
機能解剖学、生理学に基づく知見をベースとして、最小限の刺激によって当人の自己治癒力を高め、健康を回復させる施術を行う。
大学時代に始めた競技ダンス(社交ダンス)にも注力的に取り組んでおり、現在は高円寺にて「手あて指あつ処 あい治療院」を開業。
メディア発信やオンラインサロンを活用した後進の育成にも力を注いでいる。

note(SNS)|徒手療法と社交ダンスに思うこと
https://note.com/kinbousui

てあてのたまご|一人ひとりをしっかりフォローします
https://enabeauty-ai.com/therapist

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