大切な家族に介護が必要になったとき、介護施設へ入居する選択肢と、自宅で暮らし続ける選択肢があります。
私の母もそうですが、高齢者様のご自宅に訪問することが多い筆者は「できれば自分の家にずっと住み続けたいからリハビリも頑張っているのよ」というような声をよく聞きます。
国の調査でも国民の60%以上が自宅での療養を望んでいるそうです。
ご家族としてもできる限り本人の意思をかなえてあげたいと工夫されていらっしゃいますね。
在宅介護における日本の方向性
国の方針としても、在宅医療・介護の推進を10年以上前から推進しており、
「できる限り、住み慣れた地域で必要な医療・介護サービスを受けつつ、安心して自分らしい生活を実現できる社会を目指す。」とスローガンを掲げています。
65歳以上の高齢者数は、2025年には3,657万人へ、2042年には3,878万人とピークを迎えると予測されることを考えると、当事者だけではなく国民全員が自分事として準備をしていく必要があると感じます。
総人口に占める高齢者人口の割合をみると、昨年2022年は29.1%となりました。
65歳以上の単独世帯や夫婦のみの世帯が増加していくということが分かっている今、私たち鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師はどうやって社会に貢献していくのかを常に考えています。
在宅介護での負担に感じる3つのこと
たとえ本人が自宅での生活を望んでいたとしても、体が不自由になってしまったり、認知症になってしまったりすると、介護を担う配偶者や兄弟、子供や孫には多くの負担がかかります。
1 身体的負担
横になっている要介護者を起こすことや、入浴の介助をするのは、思った以上の重労働です。
また、食事や排せつの介助も肉体的疲労が蓄積します。さらに高齢になると夜間頻尿を起こすことが多く、たびたびトイレ介助をすることで睡眠不足が続き、体力を回復しにくくなります。
認知症が進行すると徘徊や幻覚・妄想といった症状が現れることもあり、介護者の身体的負担が増加していくことも多いです。
2 精神的負担
慣れない介護でのプレッシャーはもちろん、すっかり変わってしまった要介護者の様子に気持ちがついていかなかったり、社会との交流を持つ時間が取れず要介護者に愚痴をこぼすわけにもいかなかったりと精神的ストレスは計り知れません。
また、介護をめぐってほかの家族との関係が悪化してしまうケースや自身が家庭の主婦であれば夫や子供の世話に手が回らず、家庭内が険悪になってしまうケースも見られます。
そういった人間関係のストレスも負担に感じることでしょう。
3 経済的負担
基本的には介護にかかるお金は要介護者である本人が負担するべきものです。
例えば、介護のために実家に通う必要がある場合の交通費なども本人に負担してもらった方が良いでしょう。
各種介護保険サービスやおむつ代、食事代、自宅をバリアフリーにするためのリフォーム費用など、元気な時には考えなかった出費が重なることになりますが、その時のためにも自分自身備えておかなければならないなぁと感じます。
補助金の対象になるものもありますので、ケアマネージャーさんなどに確認しましょう。
介護者は仕事をセーブすることもあるでしょうが、無理をしないようにしましょう。
鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師にできること
いつ終わるとも知れない在宅介護ですが、介護疲れによる共倒れや介護離職につながらないように上記の負担とうまくつきあっていきたいものです。
鍼灸師やあん摩マッサージ指圧師が、介護を受ける本人や介護を担うご家族の負担を少しでも軽くするためにできることを紹介します。
〇介護予防
そもそも介護が必要にならないように、また更なる機能低下が起きないように機能維持回復訓練を行います。
介護予防の取り組みは高齢者が身体的にも精神的にも社会的にも個人が持つ能力を活かし、機能低下の予防に努めていくものです。
まず身体面では、筋力維持のための体操やトレーニング、関節可動域を広げたりキープしたりするための運動やストレッチを指導します。
さらに、運動時に痛みがあれば、鍼灸治療やマッサージ治療によって痛みの緩和をはかります。
セルフケアではなかなか続けられないことも、仲間と一緒だったり、施術師のサポートがあったりすれば続けられるものです。
筋力はいくつになっても鍛えることができます。筋力を維持することによって転倒によるけがや免疫力の低下を予防することにもつながります。
自宅にこもりがちで家族以外との会話が減ると精神的にも衰えてくると言われています。
地域のコミュニティやデイサービスなどに参加すること重要です。
どうしても、大人数とかかわるのは苦手という方もいらっしゃるかと思います。
鍼灸師やあん摩マッサージ指圧師が定期的に訪問することによって会話が生まれることも介護予防の一つになります。
〇自律神経症状の緩和
年齢を重ねると不眠や体のだるさ、頭痛やめまいなどのいわゆる自律神経症状に悩まされることが多々あります。
鍼灸やマッサージは自律神経症状に効果があると言われています。
実際に定期訪問させていただいている患者様の中には不眠で困っている方が多くいらっしゃって、「施術を受けた日は本当によく眠れるのよ」とお言葉をいただきます。
さて、自律神経症状はなぜ起きるのか。
自律神経というのは自分の意思とは関係なく、オートマティックに生命機能を維持する装置のようなものです。
おおざっぱに言うと、交感神経は体を活動的にさせ、副交感神経はリラックスさせます。
自律神経は文字通り体の中を通っている神経なので、筋肉が凝り固まることや、悪姿勢によって圧迫されることもあります。
また、老化によって機能低下を起こすこともあります。
鍼灸やマッサージは主に血流改善によって自律神経に悪影響を及ぼしている原因を取り除いていくのです。
夜間頻尿や夜間徘徊を減らすことができれば、介護を受けるご本人はもちろん、介護を担うご家族様もしっかり休むことができますね。
〇疼痛の緩和
要介護者のほとんどが腰痛か膝の痛み、またはその両方につらい思いをしていらっしゃいます。介護されている方もですが・・。
鍼灸やマッサージによって痛みが緩和され、「あ~気持ちいい」と言っていただくのが何よりもうれしいことです。
とくに鍼灸では鍼を刺すことによって、筋緊張緩和、血行改善だけでなく、体内で鎮痛物質を産生し痛みを止めるという研究結果が世界各国で発表されています。
痛みが和らげば、自分でトイレに行けるかもしれない。
痛みが和らげば、もう少し体操もできるかもしれない。
そうして、少しでも長くQOLを維持し自宅で過ごせるようサポートするのが、鍼灸師やあん摩マッサージ指圧師に求められていることでもあると思います。
ここまで、在宅介護の負担を少しでも軽減するために鍼灸師やあん摩マッサージ指圧師にできることを紹介してきました。
訪問鍼灸、訪問マッサージは健康保険を利用できて、低価格で痛みの緩和や運動機能向上を専門家に任せることができる国のシステムです。
ぜひ、気軽に利用してみてください。