<インタビュー:坂部昌明先生> あはきが社会の一部であるために 〜契約と社会的信用〜           

『2020年度における年間受療率が「鍼灸で4.9%、あん摩マッサージ指圧で16.4%」であることが分かった。 毎年、明治国際医療大学学長・矢野忠氏を班長とする調査研究班があはき療法に関する受療率等を調査し、このたび報告書が公表された。 』
2021年10月10日付け鍼灸柔整新聞の記事の一部である。
依然として受療率が低い中、2021年のあん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師国家試験合格者は9,500名以上となっている。
受療率は低いが国家資格者は増えるという需要と供給がアンバランスな業界。

しかしながら、国民の東洋医学に対する期待は潜在している。
近年、健康経営という考え方において、「プレゼンティーイズム」と「アブセンティーイズム」という言葉が提唱されている。

プレゼンティーイズム:欠勤には至っておらず勤怠管理上は表在化しないが、健康問題が理由で生産性が低下している状態
アブセンティーイズム:健康問題における仕事の欠勤
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/kenkokeieioffice_report.pdf

まさに東洋医学、あはきの出番ではないだろうか。
社会のニーズは高まっているはずなのに、受療率は変わらない。
このギャップは何故なのか。

明治国際医療大学講師でもあり、関係法規を通じた鍼灸の社会学の研究者でもある坂部昌明先生に伺ってみた。

Plofile>
坂部昌明
(さかべ まさあき)

特定非営利活動法人ミライディア理事
明治国際医療大学・明治東洋医学院専門学校非常勤講師(関係法規)
明治鍼灸大学(現明治国際医療大学)鍼灸学部 鍼灸学科 卒業
京都府立医科大学大学院 医学研究科 修士課程 修了(医科学修士)
公益財団法人 未来工学研究所 客員研究員
現在の研究テーマ「医療制度と免許について」
臨床・研究・社会活動と多方面で活躍中。

最も重要なことは「契約」を守ること

あはき法とは、関係法規とは

ー 早速ですが、先生はあはき・柔整業界において珍しい関係法規に関する研究者でもいらっしゃいます。我々があはきを業とし、治療院経営をしていくにあたって、押さえておくべき関係法規のポイントとはどこでしょうか?

坂部先生
あはき法は「”免許を取るまでに必要なこと”、”免許を持っている人の処罰に関すること”、”施術をしていい場所や施術をする際の届出”、”施術そのものの指導”」について規定がされています。

言い換えれば、「何をしてはいけない、何をしてよい」という規定は一応あるけれど、施術者が施術所を営むといった「社会活動をしていくこと」については何一つ書いてありません。「あはき業者に対しての最低限度の線引き」については、明治44年に作られた鍼術灸術取締規則の内容がそのまま現在の法律に引き継がれており、今の時代に合わせたアップデートはほとんでなされていません。
明治44年以降、経済活動も社会活動も変わっている中で、教育的な変化もエビデンス重視、あるいは科学重視的になっていったという変化以外は何も変わりません。今も昔も、あはき業界の教育制度に着目・研究する人もいなかったので、あはきの教育制度について考察が重ねられることはなかったのでしょう。
私や小野直哉先生は、先に述べたあはき業界の教育状況について「根本的にこの社会の成り立ちや有り様をつぶさに見直した時に、あはき法に関して、『実際考慮すべきこと』や『(本当は)気にする必要もないこと』をしっかり選別しなければいけなかったのにできていなかった」ということに着目して、「あはき業界の教育の欠如」と言っています。

話を質問に戻しますが、実は治療院経営にあたって関係法規の教科書の中には必要な要素は一つもありません
講義の中でも話しますが「患者さんを治療院に向かわせるためには、また来院してもらうためにはどうしますか?そもそもどうやって患者さんのモチベーションを保つんですか」みたいな内容は教育の中にはありません。ですが、この教科書にはないプラスαの部分が卒後は必要になります。私は講義ではこのプラスαの部分も含めて全部喋ります。喋るけども、必要なら卒後に自分で勉強するしかないよねって話にせざるを得ません。関係法規というコマ数も単位数も少ない授業の中ではとても全てはお話できないからです。
関係法規という授業や教科書の中には実社会における必要な要素は何も入っていないということを理解してもらった上で、改めて法学の視座から言える法律のような一般的ルールのうち、一番重要なことは「契約」=「約束」です。契約をどこまで認識して、遵守できるかが重要です。

ー 契約ですか、、、

坂部先生
そう契約。わかりにくい人がいれば、約束と捉えてもらって構いません。約束をどこまで認識して遵守するのかという点が非常に重要になります。

医療行為・あはき行為は”手段債務”

ー 具体的に治療院経営に置き換えるとしたらどのようなことになるでしょう?

坂部先生
コマーシャル(媒体を問わず広告・告知・掲載・掲示など)をした以上は、コマーシャル内容についての責任を負わなければならないということです。今のあはき・柔整業はその発想がなさすぎます。例えば今だと「不妊治療」「痩身」「綺麗になります」など平気で宣伝してますよね。

医療や施術契約って少し独特のところがあります。何かというと、「医療行為や施術行為をやってあげることが契約の本旨であって、結果までは担保できない」としても有効に契約が成立するのです。「鍼打ちました、痛みが取れませんでした、だからお金は払いません」ということはありません。病院だってそうですよね、「診察しました、ちょっと今日だけではわからないけど今日の分についてはお金払って」と言われても否定できませんよね。このような契約上の債務を特に「手段債務」と言います。
例えば、自費施術か否かは問わず、コマーシャルを信じて来院した人に何ら特別の説明もせずに「わかりました、では当院で施術しますよ」として施術をすると、患者側の契約上の期待に対する責任が加わることで、本来手段債務であった債務を別のものに変えてしまう恐れがあるんです。

ー 頭が追いつかなくなってきました、、、

坂部先生
要するに、「結果が出なければお金を返せ」と言われた時に施術者側が拒否できなくなる可能性があるよという話です。
そもそも無免許は違法でしょという事は置いておいて、「小顔矯正できます」という整体院さんがあったとします。小顔矯正メニューを施した後、利用者さんに「小顔になってへんやないか!どういうことですか」と裁判を起こされた場合、整体院さんはきっと負けるでしょう。

ー 施術行為は手段債務であり、結果を担保しないものだから。

坂部先生
特に表現が強いコマーシャルをうっている整体院の場合など、契約の段階で、「このような内容でコマーシャルはしましたが、結果が担保できない可能性があります。納得の上で施術受けて下さいね」と伝えているなら問題ありません。ですが、ほとんどの整体院さんでは多分言ってないし普通言いません。「わかりました、頑張ります」っていうだけなんです。それだけではクライアント側の期待を裏切るという事になるんです。顧客側の期待は法律上非常に重要な事です。施術についても同様に、手段債務と契約という視点から見ると、施術と宣伝の関係は見過ごすことのできない極めて重要な関係を持っていると考える必要があります。
ところが、あなたたちのやっているその広告・コマーシャルは本当に大丈夫なんですか?という話は誰も議論をしてきていません。

ー 広告制限の観点から広告やチラシを打つ時、ベネフィット(利益)やメリット・効果など予想される結果を断定的に伝えられません。でも断定的に伝えた方が患者さんは誘導しやすい。このジレンマが付き纏います。

坂部先生
そのポイントはすごく重要な部分です。出来上がったものに対して対価を支払うという形式の契約を請負契約と言います。典型的な例は住宅の販売です。家は出来上がったものを引き渡すという当たり前なことをしなければお金はもらえません。一方、手段債務である鍼灸や医療は完成しなくてもお金がもらえるという特殊な状況にあるんです。

私としてはもっと強気に出ていいのにと思います。
例えば、宣伝はいわゆるチャンピオンデータを示して良いのですから、「提示しているデータの最もいい結果があなたには生じないかもしれないけれど、試す価値はあると思いますから、やってみませんか?」という前向きな交渉の仕方で契約を結べばいいんです。
もちろんいい結果が出るように努力はしますが、無理かもしれませんよということをしっかりとクライアントと同意が取れていれば、強気の宣伝をかけていたとしても過度な責任を免れるんです。
言い換えれば、手段債務なのでごめんなさいが通用するんです。その辺りのことをきちんと認識して、実践しているあはき師さんはどれだけいるでしょうか。同意書などの書面をきちんと結んでいるでしょうか。そういった書面が何もない状態でクライアントさんから一方的に「私はあなたを信じたのに」と言われたら立証する手段が何もありません。裁判しても勝てる見込みは薄いですよね。
だから、「契約をちゃんと考えようね」ということはあはき師の不要な事態を回避する為に重要になってきます。

予想されるリスクとベネフィットを提示すること

ー 契約締結の瞬間には、きちんと施術者側とクライアント側でコンセンサス(同意)を取っておくことが一番重要ということですね

坂部先生
そうそうそう。まさにインフォームドコンセントというのはその点で考えなければなりません。インフォームドコンセントの根幹とは何かと言えば、基本的人権です。そして基本的人権には”自分のことを自分で決めるという権利”、自己決定権が含まれていると考えられます。自己決定権という考え方は、場合によっては相手方が為した決定に対して相手自身に責任を負わせることもあります。
「あなたの決めたことでしょう?」という相手の自己決定に対する責任転嫁のような手段を取ることができるので、一見汚いやり方に見えるかもしれません。しかし、この辺りの法律関係を理解している人間であれば、効果的にこれを利用してきます。

ー あなた自身が「施術を依頼する」と決めたのだから、その結果はあなた自身が受け入れるべきではないかという話

坂部先生
事前に説明したでしょ?と。書面もあるでしょ?と。その上でさらにあなたが何を主張するの?というところまで、果たしてあはき師はどこまで準備ができているでしょうか。 そうするとやはり、契約締結の場面に立ち返るんです。

ー 確かに、この場面でしっかりと説明・同意がなされるのであればもっと強気に宣伝してもいいのかもしれませんね

坂部先生
そうそう、どんどん言えばいい。逆にしっかり説明をしないのであれば、例えば宣伝しなかったとしても、患者側の憶測に巻き込まれる恐れもある。やっぱりちゃんと契約締結の場面では説明すべきことを説明しておくべきです。
私は現在、クリニックの入っている建物の一部を間借りしていますので、クリニックにお越しになる患者さんからはあたかもクリニックの診療内容の一部として鍼灸をやっているように見られます。ですが本当は私が個人事業主としてクリニックを間借りしているのであって、クリニックの診療の一部として鍼灸を行っているのではありません。私個人の仕事としてはりきゅうを提供しています。実際にそのような状況を他の誰に対しても立証する為にいくつもの契約をクリニックの院長と取り交わしています。
さらに、患者さんには「この行為の責任は全て私にありますので、何かあった場合は私に申し出て下さい」等の留意事項を記載した書面を正副2部作成して、片方をお渡しします。もちろん何も起こらないことが一番ですが、そういうことまでやっておくと、結果的に何か起きた時に自分で責任が取れるようになります。これが曖昧な状態で私が間借りしているクリニックに駆け込まれて、「病院の鍼灸師にこんなことされた!なんて事してくれたんだ!!」と言われたら、これは社会的信用の問題で、鍼灸師のみならずクリニックの信用が無くなってしまいます。そういった点まで考えると「本当に契約の場面でまともな説明をしたのか?」ということは極めて重要なことです。

ー そこまでやっている所はあるでしょうか、、、

坂部先生
ないと思います。例えば、東洋医学的な見方とか、あまつさえ、西洋医学的な見方さえもわからない患者さんにどこまで説明すればいいんですか?と私もよく聞かれますが、違うんです。それは発想が間違っていて、あはき師側が東洋医学的なこと、西洋医学的なことをそのまま説明することはインフォームドコンセントではありません。そうではなく、契約の本旨として患者さんが知りたいことは、今、この場所で受けるであろうことはなんなのか。そして施術による自身の健康に対するメリット/デメリットを含めた想定される結果というのはどういうことがあるのか。リスクが起こる可能性はどの程度か、ベネフィットを得られる可能性がどの程度なのかであって、別に脈診しようが、どのツボに鍼を打とうが、そんなことは誰も聞いていないんです。

その契約締結の場面では東洋とか西洋とかはどうでもいいんです。そうではなくて、契約の本旨として説明すべき必要なことはここで受けられるリスクとベネフィットをきちんと比較できる形で教えて下さいということなんです。だから例えば文章でもいいわけです。「はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧をしますよ、1回で効く時もあれば、効かない時もあります。効かない時や症状が重たい時は繰り返し来ていただく事もありますよ、(医師との間で一緒に診ている患者さんがあるならば)医師の意向も重要なのでちゃんと診察受けて下さいね」とちゃんといっておく。

ダメなのは、逆に一切説明しない。何も関係ないとしてとにかく言わないとか、「鍼は体にやさしく、西洋医学のお薬のように侵襲性はありません」といった明らかな誇大した表現をすることです。これは違いますね。「こういうことが予測されます。だからこういう風に対応します。それでもダメな可能性があります。その時は申し訳ないけど我々では対応しかねる」と素直に伝える。その上で、施術に入ることが望ましいと考えられます。

ー 自分自身もそこまで徹底できているかと言われると自信はないですね

坂部先生
まぁ、でもこれは喋り慣れも必要ですし、どれくらいの知識を以って契約をとらえているかにもよるので、いきなり実践できることはないです。

ー そんなことを教えてくれる学校もないと思います

坂部先生
ありませんよね

ー 重要なポイントはやはり「契約を守れ」という点ですね。

坂部先生
その通りです。契約とは約束ですから、約束を守れない人は社会的信用もありませんよね。当たり前のことを言っているようですが、実際の事例を思い出してみると違うでしょ?
簡単なことを難しくしているのは実は自分達なんです。

関係法規の必要性

規制の多い広告表現を
“ギリギリ一杯”で使いこなす為の関係法規

ー 先生ご自身、あはき法を始め、医療法・医師法・薬機法・景表法など関係法規をどのように利用なさっていますか?

坂部先生
先ほどのお話を少し視点を変えていうならば、法律等を理解していれば「この表現はシロorグレー」「この表現はクロ」というように表現の選別ができます。そうすると、同じ広告文でも表現の仕方さえ気をつければ、実は結構いろんなことを話せることに気付きます。逆に表現に気を付けないと言うこと言うこと全部アウトになることにも気付きます。

個人的には広告規制はもっと緩やかであるべきだと考えています。なぜかというと、そもそも患者の知る権利を阻害しすぎている可能性があるからです。ですが、他方、必要な規制を行わないと意図的にチャンピオンデータを日本で一番だとか地域で一番だのと言う言葉を示して顧客を誘引したり、必ずとかいう表現で誤解を与えてしまったり、その他にも常識的にどの業界も絶対に書かないような表現を書いてしまうんですね。そうすると、それって消費者保護法違反だったりとか、景品表示法違反だったりとかでアウト!て話になるんですね。しかも広告宣伝が違法となれば、「違法な広告宣伝をしたことを広告・宣伝する」ことにもなりかねません。結果、商品やサービスそのものの社会的信用は無くなりますよね。

関係法規によって「この表現はいける/いけない」という境界線を知っておくだけでも宣伝文句だとか患者さんとのトークでも使えますし、それだけリスクを負う可能性が下がります。言葉の使い方を知るうえでの利用価値は関係法規には十分あると思います。
そのため、コマーシャルの打ち方が上手い人たちっていうのはグレー或いは白の言葉をどんどん使っています。コレって誇大広告じゃない?過大評価してるんじゃない?って思ったとしてもセーフだからいいんですって言えるし、患者さんから「ここは自信があるんだな」と見られるし、逆にあまりパッとしない言葉だけ並べられてもなんとなく行きたくないじゃないですか。だとしたら、ちょっと行ってみたくなるような言葉を使える人の方が強いですよね。道幅ギリギリ一杯のルートはどこでわかるのといえばやはり法律等の知識です。

社会活動の基本は憲法と民法

ー その他、どのような法律に注意したらいいでしょう

坂部先生
もちろん、これまでに挙げた法律も重要で、特性のある法律ですからわかりやすいです。難しいのは、民法・民事訴訟法・刑法・憲法です。ベースラインにであるいわゆる六法と呼ばれるこれらが何故重要なのかを読み解けないと他の法律も読み解けなくなります。法学者のように法律を勉強しなさいということではなく、「マンガで読める日本国憲法」や「マンガでわかる民法」のような本はたくさん出ていますので、そういった本を読んでみて、今の日本の社会の仕組み・契約の仕組みがどのようになっているのかをちょっとでも知っておくといいですね。そうすると、法律が読みやすくなります。

皆さんの仕事は、自費の場合は商人扱いになります。療養費を利用する場合も基本的に非課税対象であることもあるが、商法が適用対象であると考えるべきです。刑法や刑事訴訟法が適用になる場面があったとしたらもう終わってます。刑法が出てくる時点で、何か事件性のあることをやらかしている訳で救いようがありません。そこまで勉強する必要はないでしょうし、そもそも勉強しなければならない状況になってはいけませんのでご注意を。

普通に社会的信用・契約という話ならば、民法・民事訴訟法・憲法です。民法・憲法をマンガで読んで勉強しておいた方がいいよねと思います。

契約の本質とは

ー 憲法と民法は普段あまり意識しませんが、社会活動のベースなんですね

坂部先生
最も重要なことは契約とは契約した者の当事者同士が最初に考えていた思惑や期待、説明したことが守られることなんです。今日のテーマの中では民法の話が重要な部分になってきます。より相手との約束を重視する社会です。

ー 商売だけでなく、生活する上で当たり前のことですよね。「約束を守る」と言うことは。

坂部先生
今回の話のキモは「約束は約束の当事者間ですら、意識している点・認知している点が食い違う」と言うことです。これをキッチリと寄せ切るのは無理です。「私はこう思って契約した」「こちらはこう思って契約した」というのは合致しないんです。ですが、契約は成立してしまいます。だから、なるべく自分達の落ち度をなくすことが契約の場面には必要になります。そう考えると、契約は恐いものなんです。お金払ったら終わるってものじゃない。

ー 恐いですよね。

坂部先生
だから事前に色々準備しておくんです。事前説明の紙1枚見せるだけでも、手渡すだけでも違うし、その案内に基づいて自分達がきちんと行動しているかも違う。「私たちはこの案内の通りに行動しているでしょう。だからあなたの主張していることはちょっと違いますよね」と言える備えをしておかなければ、相手の言い分を飲むしかなくなります。やはり恐いですよね、相手の言い分を飲み続けるのって。飲まなくていい場面を作ることが大事です。
あとは何か起きた時に「痛い目に合わせてやろう」と思う連中もいます。同じ約束をするにしても相手が善意で見てくれているのか、悪意で見ているのかで起こる結果が全く異なりますので、これが悪意のある人たちに悪用されてしまうと目も当てられない状況になることは注意が必要ですね。

あはき×他業種コラボレーションの可能性

ビジネスにおける3つのキモ

ー 以前、先生のご講義で「ダーツバーを施術所として開設届を出した例もある」とお伺いをしたことがありますが、治療院と別業種のコラボが事業を太くしたり、社会の認知をあげる上で重要になりそうな気がしています。他業種とコラボする際に意識した方がいいことはありますか?

坂部先生
その場面においても明確にしなければならないことは契約で、この事業がどのような計画でもって動いていくのかをどこまで提示できるか、その際に生じるであろう利益の分配をどうするのか、その責任の所在はどうするのか。その三点を明確に共有しておかなければコラボレーションは不可能です。

ー 利益の分配、責任の所在、事業計画。

坂部先生
最低でもこの三点を相手に提示できなければ、話ができません。コラボレーションできるよねという話をしても実現ができないのはこの3点が抑えられていないからです。
どういう進め方をしていくのかを提示できなければそもそも何をしていいのかわからない、出てきた利益をどう配分するかがわからなければモチベーションが湧かない、何か問題があった時に責任を全て負うようであればデメリットが多過ぎて嫌になります。最低この3点は明確に提示できなければなりません。
これまでの事例を見てわかる通り、あはき師さんたちの教育にはこういった教育はありません。この3つが提示されなければどれだけコラボレーションを頼まれても前に進みません。普通のビジネスやっている人たちはお互いこの部分を意識しながら相手と擦り合わせていきます。その部分の擦り合わせができないとコラボレーションはまず不可能です。

ー 他の事業とのコラボだけではなく、「誰かと何かをやる」時には同様のことが言える気がします。

坂部先生
それでも人は繋がれてしまえるんです。繋がったら繋がったなりに作ればいいんです。なるべく早めに決めてしまうのがいいし、決まってきたら必然的に契約書も書けるようになります。これらを確保する為の最低限のルールぎめを書面に起こせば契約書になりますから。
そこまでくれば自分達が事業を進める上で必要なことを一つずつ盛り込んでいくことで契約書が作成できます。ぜひ、専門家(司法書士など)に相談に行きましょう。

あはきと他業種併設の施設は可能なのか?

ー 自分であはきと他業種、今まで自分が培ってきたスキルや経験、人脈を活かしてコラボさせようするケースもあると思います。例えば、今までコーヒーメーカーに勤務していたので、あはきとコーヒーショップを併設しようとか。そういう場合はいかがでしょうか?

坂部先生
流石に焼肉屋なんかは合わないと思いますが、、、笑
ちょっと飲食店なんかは衛生的にリスキーな部分もあると思います。
でもコーヒーショップなどの他業種施設との併設は普通に考えることができます。例えば、私は講義中に冗談で言ったことがありますが、キャバクラと併設でもいいわけです。風営法の許可が降りるのであれば。ガールズバーやってもいいんです。あはき法で規制していることは衛生管理であって、衛生を一番管理されるべきところは施術室です。施術所にとって最も重視されるべきところを押さえておく。そしたらあとはなんでもいいと考えてもいいんです。
施術室は専有でなければならないが、待合は共有できます。待合室と言ったって、全ての空間を使う必要はありません。例えばホテルのロビーでも、空間を区切るような仕切りを作っておけばカフェスペースとして利用できますよね。カフェは衛生管理責任者を置かなきゃいけないですが、カフェスペースであるこの空間にのみ食品衛生規定が適用されるわけであって、ロビー全体に管理責任者を置く必要はありません。

実際、大手製薬会社で手伝った事例ですが、その会社の保養施設を一般開放したというコンセプトで、総合受付から入って、ヘッドスパ等のいろんなサービスが受けられたり、オーガニックの食事が取れるような施設内に鍼灸院も併設しようとしました。ですが鍼灸院だけ届出の許可がおりませんでした。それはおかしい、なぜかと問い合わせたら、施術室を専有で準備しているのはいいが、待合がないと言われました。総合待合はダメだと言われたんです。総合待合がダメという何か法的根拠はあるのですかと聞いたら、それは提示されませんでした。なので、「じゃあ、その施術所の前に2畳分の待合スペースを設けましょう」と。待合室に当たる区域にイスを2つくらい置いたら待てますよね?と。この対応を加えることで、施術室は専有で設けているし、お金のやり取りも施術スペース内で完結するなど、その他の条件は満たしていますので届出は受理されました。

ー では、例えばですが、ホテルのロビーの一角にパーテーションで専有の施術スペースを区切って、その前に丸いすを2つくらい置いて「はい、鍼灸院です」と届出を出すこともできる、と。

坂部先生
もちろんです。出せるし、同じ仕組みで病院の地下などに理美容院や施設がありますよね。クリニックの中のある区画だけ、クリニックの専有分から解除、つまり、この部分だけクリニックの持分ではありませんよ、とすることができ、その部分だけ賃貸で貸し出すことができるので、その賃貸部分に鍼灸院が入ることもできるんです。
難点は、治療院の営業時間の入り口と病院の営業時間の入り口を同じにしてしまうと、事例がなさすぎてNOと言われる可能性があります。
もう一つはクリニックの物品管理や防犯の問題があります。病院の患者や治療院の患者、それぞれの業者などいろんな人が一つの出入り口を使うことで不審者の侵入を許してしまう恐れがあります。
例えばクリニックが休みの時に治療院が営業するとなると、出入り口は別にした方が防犯上いいよねということになりますが、理屈上は可能です。

ー ”建物は同じでも入り口は各々独立していないとダメ”という話も聞きますが入り口が一つであったとしても可能なんですね。

坂部先生
はい。可能です。入口の独立という点をどのように理解するかが重要です。例えば間借りについて考えてみて下さい。間借りとは、ある家のある部屋だけ借りること。それが日本では許されているし、間借りも立派な賃貸です。そしてその場合、間借り部屋は部屋の入り口を持って賃貸物件の入り口としています。

入り口が確保されれば、次は届け出たい施設の基準を満たすことが重要です。
例えば、ホテルのロビーの中に、パーテーションで括って、なんでもいいのでお店を開いたとします。それって怒られますか?怒られないんです。この建物のオーナーがこの空間をどう使おうが自由です。「このお店はこの条件でこの場所で営業していても差し支えがないもの」として届けも出していますとすれば問題ないんです。
あはきの場合は衛生管理の問題があります。専有部にしなければならないのは施術室のみ。あとは共用だろうがなんだろうが問わないのは待合。待合と玄関を一緒にするなというのはまだ理解ができます。玄関は待合に含めるなと保健所の指導が入る場合があります。玄関では待つことができませんので。でも、待合兼通路のようなスペースに椅子をおいて待てるようにすれば待合でいいんです。実際そのような施術所はたくさんあります。
今大手ショッピングモールで、モール内にメディカルモールがある場所があります。モール内のクリニックにはそれぞれの入り口があり、入口の中には待合と受付があって、さらに中に診察室があります。
例えば、病院の中にモールを作って、モールの中に施術所を作る。施術所の入り口があって、中に待合と受付があって、さらに中に施術室がある。何にも問題ないですよね。逆にダメというなら、何がダメなのか聞いたらみんな困るはずです笑 

ー 論破ですね笑

坂部先生
他と違うやり方や今まで見たことのないやり方をすぐに批判する地域の保健所や医務課もあります。だけど、それ以前の根本の問題点を突き詰めていく見方をしていかないと、本来争わなくていい点で争ったり、争うべきところで争えないです。争わなくていいところで争っている事例はたくさん見るのでそれは勿体無いと思います。
施術所は本当はいろいろなことができるんです。コーヒー屋さんと鍼灸院のコラボ施設は作れます。あとはどこまでお金をかけれるかだけです。

ー 衛生管理の問題はあるでしょうが、他業種併設で食堂など事業としての相性はきっといいと思うんです。

坂部先生
そうですね、あとは飲食する場所も含めて衛生管理をしなきゃいけません。飲食する場所が明確に区切られている場合、食事をするスペースについては特に他の業種が入ってはいけないと言うルール決めはないです。何やってもいいんです。ただし、飲食するスペースの中で何か専有でなければならないことをしようとするならば、その場所だけは確保しなければいけません。
変な話、大きい体育館の中にジムがあって、ジムの中に鍼灸院があって、鍼灸院の待合スペースの中にカフェがあって、カフェの中に施術所があって、施術所の中にもう一つジムがあって、、、、、と言う施設もルール上は作れなくはないんです。そんな施設が必要かどうかは別ですが笑
専有でなければならないところ、共有でも問題ないところは上手に区切ればそこも専有部分と主張することはできます。その専有部分に関してルールを守れば他の部分は共有としていろんなことができます

ー と言うことは、漫画喫茶の1ブースも施術所として主張できると。

坂部先生
そうですよ。もっと簡単なのは漫画喫茶の中に受付があって、中に、開戸でも引き戸でもなんでもいいですが、ドアを作って、その中が専有のスペースなんですとすれば全然可能です。もしそれを認めないならば、スーパー銭湯の中のマッサージ屋さんは仕事ができなくなります。

ー あの施設はリラクゼーション施設として届出事業ではないので何をやってもいいと言う認識なのでしょうか

坂部先生
リラクゼーションの場合はその可能性はあります。でもあれ、本当は銭湯側もリラクゼーション使いたくないんですよ。

ー そうなんですか?

坂部先生
だって、責任取れないから。そこでいい加減なことやって、何か問題があった場合に「お前らの銭湯のせいだ、スーパー銭湯側の管理・運営が悪いせいじゃないか」って絶対言われるから。

ー スーパー銭湯側がリラクゼーションに許可与えたんでしょ?ってことですよね

坂部先生
そうそうそう。「お宅の施設の一部ではないのか?」と言われます。その時にその業者自体がちゃんと契約書の取り交わしがあって、お客さんに説明しているかと言えばしていないでしょうから銭湯側として逃げ道がないんです。変な話、責任は向こうにあるから向こうに言ってくれとは言えるけど、多分ちゃんと仕事ができる弁護士さんを連れてきたら、スーパー銭湯側に賠償請求できるでしょうね。だって、利用者からしたら一体の施設に見えるじゃないですか。中では別会社という説明も明示もしていないですから、利用者側が調べなかった落ち度は減額されるとしても賠償請求は可能でしょうね。
契約重視なので、契約の際にそれを説明したかという点が重視されますから。

あはき・柔整界のコンプライアンスレベル

ー 次のテーマです。今のあはき・柔整業界のコンプラ意識や倫理観について、先生からはどのように見えていますか?

坂部先生
評価の仕方によりますし、コンプライアンスについては目に見える評価の方法がありませんが、あえて10段階評価をするならば、今ようやく2か3くらいですね。
例えば飲食業界ならば4〜5、意外と低いわけでもないです。そもそも日本のビジネスの現場はコンプライアンス意識が低いので。
一番高い業界は8〜9で金融ですね。そうでなければ自分達がリスクを負いますから。銀行とか保険・証券会社ですね。あとコンプラガチガチなのは外資系ですね。

ー そのような中で、あはき・柔整界を1〜2と評価された理由は。

坂部先生
まず、教育がない。ルールが不明確。ガイドラインがない。実際に「これはコンプライアンス上起こり得ないだろう」という事故・事件が起こる。

ー 例えばどのような?

坂部先生
療養費の不正請求。疑われたらアウトだと言っているにも関わらず起こる猥褻行為。事前の説明によって患者さんの同意が得られていればよい行為について、同意が得られていないために猥褻と受け取られてしまうことになる。普通にそうですよね。男女関わらずシークレットな部分を公開しろっていうことはまずないですから。それもコンプライアンス意識がしっかりあって、事前の説明と同意があって、信用を得ており、必要性を患者も納得しているのであれば公開してくれます。そういった事案が実際に毎年、刑事事件になったとか行政処分になったとかいう実情を見るとやっぱりレベル低いよねと思わざるを得ないです。一番きついのは療養費の不正請求でしょう。普通にあり得ない。

ー 今の3点、これを是正する為には何がどう動けばいいんでしょうか?
実際その是正の動きはあるのでしょうか?

坂部先生
理想と現実の話は乖離があるという前提でお聞きいただきたいんですけども、理想論としてはその全ての部分において代表者が集まり議論して、解決策を探ること。だけど、現実としてはそのような機会はないですし、そもそも問題だと思っていない。じゃあ、例えばこの5年10年を我慢して、上の世代の人たちが抜けた時に一気に改革をするという考え方もありだと思います。とにかく焦ってもやれることは何もないです。かといって、今私たちが声を上げたところで遅い。やっぱり5〜10年はかかるでしょう。だったら5〜10年で世代交代に備えて、我々が何かをできるように準備をしていく。これが一番かなと思います。ガイドラインも2〜3年は出ないでしょう。

ー そこまで時間がかかりますか。

坂部先生
元々考えてる人がいないので作れないんです。
下地がないところに無理やり作らせようとすると、わけのわからないものが出来上がります。後々困るのはこちらですから。現実に即してないガイドラインを作られたら「このガイドラインに違反しているじゃないですか」と、ガイドラインに沿った指導をされて、本来出来ることが出来なくなります。

ー 有識者不足ですね。。。

坂部先生
それもありますし、そもそも問題意識されていないところに問題があります。

ー 問題意識がないところにどう問題意識を持たせるか、非常に難しいですね

坂部先生
そう、問題だと思ってないことに時間をかけたくないと思うじゃないですか。でも、そういった所に興味を持たないということは不利益を被っても仕方がないですよね。きつい言い方をしますが「興味のないことは勉強したくない、そんなもの研究者に任せればいい」という人がいますが本気ですか?と。違うでしょ? あなたたちは業をやっているでしょ。業をやっている以上は患者がいるし、患者は国民だし、国民の生命を守るのがあなたたちの役割であり責任です。その責任を放棄するのであれば不利益を被っても仕方がないじゃないかと思うわけです。当然、人は安全な所に行きたがりますし、安全な上に東洋医学を受けれるところ、安全な上にトリガーポイントを受けれるところのように探していければいい。

ー 「安心・安全な施術所探し」は我々のような検索・マッチングサイト作りのキーワードになりそうです。

坂部先生
それをとにかく、「私(ワタクシ)」でやらない。何もかも巻き込む。巻き込む際に、先ほどの計画やメリットの分配、デメリットの対策が大事です。

社会への適合、社会からの信用

コンプラレベルの低い業界の行く末は

ー 最後に、現状、2~3/10レベルの当業界のコンプライアンスレベルですが、このままいけばこの業界はどうなるか。将来展望をお聞かせ頂けますか。

坂部先生
せっかくなので極端なことを言わせていただくと、生存はします。ただし、シャーマンとかイタコなどのレベルで生存します。
知っている人は知っていて、そのような人たちが崇めるように受けにいくと。学校も無くなりますね。手先が器用な人たちが一子相伝で技術を受け継ぐだけでいいですから。歌舞伎のように、若い頃から仕込まれた人たちが崇拝されるような形で提供されていくでしょう。一般的な健康上の問題は全て現代医療が解決してくれますから。そもそも要る要らないって言われた時に要らないと言われる可能性だってありますから。シャーマンのような形で残るでしょうね。でも、ある種、古典的な伝統医療として、今の鍼灸師さんたちが言うような伝統や古典という捉え方からすると理想の世界かもしれません。ただし、それは業としての生存にはなりません。

ー 逆に今のあはき業界の動きから見て、先生としては、将来的にどんなことをしていかなければならないでしょうか

坂部先生
一昔前から、技術とか捉え方とか知識とか、いろんな場面において多様性を認め合いましょうよと言われていますよね、LGBTQとかSDGSとか。でも本気であはき業界がこの社会で生き残りたければ、多様性に逃げたらダメですね。多様性そのものは受容するべきだし、利用すべきですが、多様性に逃げてはいけない。多様であるならば競争を回避はできない。多様の中でもいずれは駆逐されるものが出てくる。駆逐されるものはなんですかと言えば、社会に適合できないものです。

今の社会って物質重視型の社会からどんどん変化しています。それはもっと時代が進むと宗教性や精神性、概念性のような社会にシフトするでしょうし、そうなっていかざるを得ないんです。物質崇拝や物質を信じてきた人たちが生み出してきた物質によって、住んでいる世界が破壊されてきたという現実をその子供達が見ているわけです。
一部の経済学者や社会学者は予測していますが、世界は宗教的、精神的、概念的、形而上の世界に傾倒していく恐れがある。これは悪いことではないのだけど、誤った神の崇拝によって世界を死に至らしめるとも言われます。私はそれが鍼灸にとってはいい風の吹き方にもなれば、風の受け方によってはとんでもなく悪い方向にいく恐れもある。宗教化する恐れもある。それも困ります。そうじゃなくて、この業界が今から自分たちの立ち位置をしっかり理解し、為すべきことを為し、為さざるべきことに対しては断固として拒絶すると言う態度を貫くしかないでしょう。

ここまでくると一番最初の話に少しずつ返ってくるんですが、社会の信用とは何に付随してくるのかというとお金を稼いでいることではなくて、真の意味における、人に対して医療を提供する、人の健康にどこまで貢献できるのか、健康とは医療で回復させるものではなく、医療を受けなくてもいいように維持・継続・持続させてあげるもの、その維持・継続させることが結果的にその国を助けることにもなり得るし、悲しみの少ない世の中を作れる可能性があるよね、と。
今までみたいに物質を全投入して、本当は死ぬ人を生かしておくのではなく、死ぬべきは死に、生きるべきは生きるという選択を当たり前にできる社会が当たり前になってくるにはその精神性の発育・向上、物質のみの世界観からの離脱ができなければならない。それが鍼灸の臨床で仕事している人は見落としがちです。あはき業者以外の人で鍼灸や東洋医学に期待している人たちは、施術者はこのような理解ができている者であると考えています。
今後の社会において期待感を持ってもらえるであろう鍼灸・東洋医学のあり方や東西問わず新たな医療の世界観はこの”精神性の発育・向上、物質のみの世界観からの離脱”という部分を通じて変容してくるだろうと思っているし、その変化の中に勝機があると思っています。だから、その時に人に説明を尽くさないとか今まで私はこう施術してきたからこうなんだという理屈は通用しないでしょう。どれだけ共有できるか、どれだけ説明できるか、難しい説明ではなく、どれだけお互いが理解し合えるかが問われるでしょう。

上手な社会とのお付き合いが信用を勝ち得ていく

ー どれだけお互いの齟齬がなく、考え方ややることを理解し合えるか、共有できるかですね。

坂部先生
簡単ではないですが、挑戦せざるを得ない社会になっていくでしょう。理想論的に聞こえるこの話を人は理想として追い求め始めます。いずれ現実化していきます。その時にその現実から最もかけ離れた仕事から消滅していくわけです。その消滅はAIに取って代わられる職業とはちょっと違うわけです。今、話しているように、こんな世界に鍼灸師を寄せようと思っても難しいよねと、今は明日の生活にもあっぷあっぷしているのに。いやいや、明日の生活にあっぷあっぷしない方法はいくらでもありますよ。ちゃんと契約して、ちゃんと信用を勝ち得て、ちゃんと人がくる環境を作るだけです。
なんでそれをせずに、コマーシャルに時間をとってみたり、余計なことに時間と労力を費やすの?と思うわけです。だから、元気に挨拶する、それだけでもいいんです。でも元気に挨拶すらできない人もいる。私は対人関係が得意じゃないからって。それは理由にならないんです。じゃあこの仕事やらなきゃいいじゃないか、どこかの治療院に従業員として働けばいいじゃないかと。そんなこと言わないでよ、と言われても社会の人たちがそれを求めている以上は適合しなければならないし、適合できなれば駆逐されるだけだし、回避することはできません。だって社会が求めているんだから。

ー 社会に求められ、社会に適合できなければ生き残れない

坂部先生
それは他の業界も同じだと思います。大して突飛なことを言ってはいないけど、誰しも為してないことだと思います。

ー 今まで先生とはオンラインでお話させて頂いていましたが、こうやって実際にお会いしてくれていると言うことはある程度先生が私を受け入れてくれていると言うことでしょうし、どんな商売をするにしても相手に受け入れられない限りはそこに発展・進歩・実現は成り立たない。この業界としてのキーワードはどれだけ社会から求められていることを提供できるか、社会では普通に行われていることをやれるか、なのかなと感じました。

坂部先生
意外とこういうことやらないなと思うのは、地域の中でのあなたってどういう立ち位置ですか、地域の人たちからどのように見られていますかを話す機会はあまりないですよね。私は実際、住んでいる所の近所付き合いはほとんどありません。
今ここで震災が起きたとして、誰か助けますかと言われればクリニックの患者さんなど、職場の近隣の方々を助けにいきます。
でも私はそれでいいと思います。私が私の立ち位置の中で求めている”理想の私の在り方”に近づいているか、挨拶するとか、掃除するとかでいいんですが、そういうことをやらずに浮いているのに、私はこの地域でやっていきますって言っている鍼灸院さんて結構多いんですよね。違うよねと。一生懸命やらなきゃいけないのは他にあるよねと。パフォーマンスでもいいから自分のビルの前を掃き掃除しておはようございますって言ってみたらいいんです。近所の人たちから「あそこの治療院さん、なんか感じいいよね」と言われるくらいで人は来ますから。それに徹する時間は必要でしょと。私らも掃除いきますから。掃除しながら、患者さんや近所の人に「あんたら、こんなことまでするんやなぁ、大変やなぁ。」って言われても「いいんです、どうせ僕らは雑用みたいなもんなんで笑」って言ってるとちょっとずつ場に馴染んでいきます。そうすると、たまに「これでも食べぇや」って差し入れくれたりする。
私ももう3年くらいやってますけど、そうやってクリニックのお手伝いをして、地域に馴染んでいくと急激に鍼灸受けたいって人も増えてくるんです。当たり前ですよね、顔知ってるから。「あんただったら、俺受けにいくわ」という人が増えてくるんですけど、そういう勉強をする場面ってないですよね。臨床知識の研鑽はしなきゃいけないわけですけど、もっと重要なところが他にあるというのがイマイチわかってもらえてないかなと。

ー もっといい意味で社会に染まらなければならないと思います。地域活動に少しでも参加するとか、両隣に会ったら挨拶するでもいいし、挨拶の仕方もハキハキ挨拶するだけでも評判も変わると思うし、人がスムーズに社会活動を営むのに当たり前にやっていることをあはき業界はもう一度やり直さなければいけないのでしょうか。

坂部先生
それが上手い人たちは治療院も残っていますよね。私、実はレジ打ちのアルバイトもしています。知り合いのお店のレジ番ですが。なんのためにやっているかと言われたら、営業トークの練習をするためとその商店街の中の興味がある店には足繁く通っていると、もう商店街の顔見知りの人たちは挨拶してくれるんですよね。そうなってくると、私が勤務全く関係ない日に、「あの人に〇〇が入荷したって言っといて〜」と言われたとLINEくれたりするんですよ。地域の中にスッと溶け込んでいくという練習もしているようなもんです。
私のライフワークのもう一つは災害医療です。防災的観点の一番重要なところは生存です。地震や台風などの自然災害を防ぐことは無理です。今、私の住んでいる地域で私を頼る人は誰もいないでしょう。私は「この人たちは救援したいな」と思う人たちの所へ行きたい。それはクリニックや商店街の周辺なんです。私がそういう緊急事態に助けに行きたいと思う場所があるということは、裏を返せば、平時、そこと関わりがあるということです。平時関係が持てているということは、そこで開業するとしぶとく仕事ができます。
関係法規云々よりも社会に適合する時にやることって難しくないし、大したことではないんだよという事を教える勉強会があってもいいのかなと思います。そうやって患者さん作っていって、自分たちのところで月にのべ200人でも診れたら大きい収入になるじゃないですか。その200人を作るために必要なことはチラシじゃなくて「おはようございます」かもしれません。

ー 今日の感想は「社会とのお付き合いの仕方」だなと思いました

坂部先生
そのためのルール=法規の勉強です。

関連記事

  1. <インタビュー:精神保健福祉士 栗山直也氏>認知症と地域医療連携〜あはきへの期待〜         

  2. <インタビュー:はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧師 川井大輔先生> 政治×鍼灸

  3. <インタビュー:松田博公先生> 究極のわざへ 〜日本鍼灸を求めて〜

カテゴリー

  1. 【第3回】あん摩マッサージ指圧師の手技療法よもやま話

  2. 【AHAKI Jobs】 〜11/13正午締め切り!企業への出張鍼灸マッサージ…

  3. 【第2回】あん摩マッサージ指圧師の手技療法よもやま話

  4. 【最終回】公認心理師が解説!からだケアのための”こころケア”

  5. 【コラム】第4回:今日、何食べる?