訪問マッサージは保険が使える?料金は?現役マッサージ師が解説!

意外と知られていない”訪問マッサージ”というサービス。国家資格を持った施術者のマッサージがご自宅にいながら受けられるというものです。その料金体系や利用の仕方を現役あん摩マッサージ指圧師が解説します。

訪問マッサージとは??

まずは訪問マッサージとはどのようなものなのかご紹介致します。
訪問マッサージとは”通院が困難な患者様のご自宅や入所先の施設へ訪問し、あん摩・マッサージ・指圧の施術を行うサービスです。
出張マッサージとも呼ばれることもあります。
施術者は国家資格である「あん摩マッサージ指圧師」が必要です。また、保健所へ開設届または出張届を届け出ており、なおかつ施術管理者でなければなりません。

施術者がご自宅や施設へお伺いしますので、ご自身で通院なさる必要はありません。
また、医師によって医療上、マッサージが必要と認められた場合は医療保険が適用となります。
訪問マッサージと似たサービスに訪問リハビリテーションがありますが、こちらは「理学療法士」や「作業療法士」が担当し、原則として介護保険が適用となります。
(65歳未満の方や65歳以上でも要介護認定を受けていない人は訪問リハビリテーションでも医療保険を利用することになります)

あん摩マッサージ指圧師とは

訪問マッサージを行うには「あん摩マッサージ指圧師」という免許を取得する事が必要です。
あん摩マッサージ指圧師免許は厚生労働省または文部科学省認可の養成機関(大学・専門学校・特別支援学校)へ通うことがスタートです。
3〜4年の修業期間を経て卒業し、あん摩マッサージ指圧師国家試験に合格した後に、免許申請をして初めて付与されます。

「あん摩マッサージ指圧師養成機関では最低2,385時間以上の履修時間を設けること」と厚生労働省で定められており、生理学や解剖学、公衆衛生学といった基礎医学科目から臨床医学各論やリハビリテーション医学などの臨床科目、あん摩マッサージ指圧理論などの専門科目を履修します。
学校によって特色のある授業や科目を履修し、自身の専門性を高め、医療従事者としての知識・技術を研鑽していきます。

“あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師等に関する法律”では、「医師以外の者で、あん摩・マッサージ・指圧を業わいとしようとする者はあん摩マッサージ指圧師免許を取得しなければならない」とされており、徒手療法(手技療法)においてのスペシャリストです。

健康保険が利用できる訪問マッサージ

あん摩マッサージ指圧師が行う訪問マッサージでは公的医療保険(健康保険)を適用する事ができます。
マッサージの保険適用症状は下記の通りです。

<あん摩・マッサージ・指圧における保険適用症状

①筋麻痺・片麻痺に代表されるように麻痺の寛解措置としての手技
②筋萎縮や関節拘縮が起こっている所に、その制限されている関節可動域の拡大と筋力増強を促し、症状の改善を目的とする医療マッサージ
③神経痛に対しては、症状等から真にやむを得ない場合に対象となります。


マッサージの保険適用は「〇〇病」や「〜〜症候群」のような具体的な疾患・診断名を必要としません。筋麻痺や関節拘縮など、患者の症状が医療上マッサージを必要とする症例で施術を受けた時に保険の対象となります。

<施術を受ける時の注意>

・マッサージの施術を受けるにあたって、保険が使えるのは、あらかじめ医師の発行した同意書又は診断書が必要です。詳しくはマッサージ施術所などにお尋ねください。
単に疲労回復や慰安を目的としたものや、疾病予防のためのマッサージなどは保険の対象となりません。

<参考:厚生労働省 柔道整復師等の施術にかかる療養費の取扱について>
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/jyuudou/index.html

訪問マッサージ利用の流れと料金について

<利用の流れ>

患者さんの症状や施術所などの各事業者によって異なるケースもありますが、訪問マッサージを利用する際の手順はこのような流れになります。

1)医療上マッサージが必要な症状であり、かかりつけ医から同意を得ます(同意書又は診断書の取得)
2)近隣で訪問マッサージを行なっている施術所や事業者を検索し、問い合わせます
3)施術者が初回訪問し、患者さんの症状やお困りごとをお伺いします。お聞きした内容を元に目標やご希望の施術プランとスケジュールを提案し、ご納得頂いた上で施術開始となります。

元々施術所に通っていた患者さんが怪我や病気により歩行困難となり、通院が難しい為に訪問マッサージを希望するケースなどで、1)医師の同意取得 と 2)施術所への問い合わせ の順序が逆になる場合もあります。

<訪問マッサージ事業者を探すには>

1)インターネット検索

近隣のマッサージ治療院だけでなく、最近では訪問マッサージ事業を展開している大手企業も増えてきています。
『お住まいの地域+訪問マッサージ+健康保険』とインターネット検索するのも一つの手段でしょう。あん摩マッサージ指圧師免許のない施術者(施術所)では健康保険が適用されませんので、『健康保険』というワードを入れることで確度の高い施術所が検索できるでしょう。

※リラクゼーションや美容系の大手検索サイトではあん摩マッサージ指圧師免許を持たない店舗が多く掲載されています。訪問マッサージは免許行為ですので、そのような検索サイトに掲載されている店舗では対応できないケースがあります。ご注意下さい。

2)担当医師やケアマネージャーに相談する

主治医やかかりつけ医、担当ケアマネージャーが訪問マッサージ業者を知っている場合がありますので一度相談してみましょう。信頼できる医師やケアマネージャーからの紹介はより質の高い訪問マッサージ業者と出会える可能性が高いです。

3)関係業界団体へ問い合わせる

あん摩マッサージ指圧師にも関係業界団体が存在します。あん摩マッサージ指圧師だけでなく、はり師・きゅう師とともに組織として活動している団体が多いです。それら業界団体では近隣の施術所を検索できるホームページや直接問い合わせをすることが可能です。

①一般社団法人 全国鍼灸マッサージ協会
https://www.jamma.org/search/

②公益社団法人 日本鍼灸師会
https://www.harikyu.or.jp/

③公益社団法人 全日本鍼灸マッサージ師協会
https://www.zensin.or.jp/about/link.html(各都道府県支部へのリンク)

※全日本鍼灸マッサージ師協会では全国各地の施術所を検索することはできませんでしたが、各都道府県の支部のホームページより検索できるところもあります。
例)一般社団法人 神奈川県鍼灸マッサージ師協会
http://www.kanashin.jp/chiryouin-search/

④公益社団法人 日本あん摩マッサージ指圧師会
http://nichimakai.or.jp/

ちなみに日本あん摩マッサージ指圧師会や東京都鍼灸マッサージ師協会では施術所検索はできませんでした。
鍼灸・マッサージの普及の為にも各業界団体の一層の活動努力を期待したいです。

<料金について>

訪問マッサージの料金は3つの項目によって変わります。

・施術の種類、部位数(マッサージ・変形徒手矯正術、1〜5部位)
・訪問先までの距離(前の訪問先からご自宅や施設まで)
・医療保険の自己負担割合(1〜3割負担)

施術の種類、部位数(マッサージ・変形徒手矯正術、1〜5部位)
医師が記入した同意書の内容によって算定されます。

施術の種類部位数単価対象部位
マッサージ1〜5350円体幹、右上肢、左上肢、右下肢、左下肢
変形徒手矯正術0〜4450円加算右上肢、左上肢、右下肢、左下肢
令和4年5月31日改訂

訪問先までの距離(前の訪問先からご自宅や施設まで)
利用者のご自宅までの交通費を往療料と言います。
4km以内で2300円、4km超で2550円となり、距離は地図上の直線距離となります。(線路や川など迂回によって大幅に距離が変わる場合は摘要に書くことで実際の移動距離で計算できます)
※拠点から16km以内が訪問範囲です。

同一施設や同一家屋で複数患者様を施術した場合は、いずれか一人の患者様のみに往療料が算定されます。

医療保険の自己負担割合(1〜3割負担)
介護保険は使用できません。健康保険証に記載されている負担割合で請求されます。
心身障害者医療費助成制度や生活保護の方も訪問マッサージがご利用になれます。

料金は厚生労働省によって決められる
健康保険適用によるマッサージの料金(正式には療養費といいます)は厚生労働省によって決められており、2年に1度、料金の改定があります。事業者(施術者)は都度、最新の療養費規定を確認しておく必要があります。

症状や必要施術部位、年度によって料金は変動する
上記のように、医師の同意した施術の種類や部位の数、厚生労働省による料金改定によって訪問マッサージの利用料金は変動します。トラブルにならないよう、事業者は利用者への適切な料金体系の説明をする事が望ましいでしょう。

保険適用で訪問マッサージを利用するメリット/デメリット

訪問マッサージのメリット・デメリットをまとめてみました。
ご本人やご家族によって違いはあると思いますが、一般的なものをご紹介します。

<メリット>
1)外出しなくてもいいので体力的な負担が少ない

訪問マッサージを希望される方は要介護認定を取得されている方が中心です。(移動に問題のない人は往診の必要を認められない為)
寝たきりや歩行困難の為、病院や治療院までの移動ができない、又は負担が大きい方々にとっては、自分が移動しなくても施術者が自宅に訪ねてくれる訪問マッサージは、体力的な負担も少なく利便性の高いものでしょう。

2)慣れた環境で落ち着いて、継続的に施術が受けられる

マッサージには気持ちを落ち着かせ副交感神経を働かせる作用がありますが、リラックスできる環境で施術することで相乗効果を発揮します。
また訪問マッサージは「○曜日の〜〜時」といったように曜日と時間を固定して伺うケースがほとんどです。
目標に向けて、定期的・継続的に施術を受けることでよりマッサージや機能訓練の効果を感じられるでしょう。

3)健康保険が利用でき、経済的な負担が少ない

訪問マッサージは公的医療保険(健康保険)を適用することが可能です。マッサージは1回の施術で症状を100%改善することは滅多にありません。機能訓練や生活習慣の見直しも含め、少しずつ患者さんのお身体を改善させていくものです。
経済的負担を減らすことで長期的にマッサージを日常生活の中に取り入れて頂くことが可能になるでしょう。

4)回数券など高額な商材を販売される可能性が低い

接骨院や整骨院・整体院などの中には 「長期的に通院しないと改善しないのでお得な回数券を買った方がいいですよ」などと患者さんの不安を煽って高額な回数券を販売したり、サプリメントや健康グッズなどの高額商材を販売するところもあるようです。
訪問マッサージは自費診療ではなく保険診療が中心となる為、そのようなリスクは少ないといえるでしょう。

<デメリット>
1)同意書の取得など利用開始までに時間がかかる

保険適用による訪問マッサージを利用するには窓口で保険証を提示するだけでは利用することはできません。かかりつけの医師(保険医)から同意書または診断書を取得する必要があります。
まずは医師の診察を受け、訪問マッサージを利用したい旨の相談をしてみるのがいいでしょう。医師の判断により、マッサージの適応症状かつ往療の必要があると認められた場合、医師が書類を作成します。病院での受診や自費施術と異なり少々時間と手間が発生します。

厚生労働省 同意書(マッサージ) フォーマット
https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/iryouhoken13/dl/180621-13.doc

2)1回の施術時間が20〜25分と比較的短い

一般的にあん摩マッサージ指圧治療院での治療費は、1回60分¥5000〜6000程度が相場だと思われます。訪問マッサージでは保険適用となり、部位や単価も定められていることから1回20〜25分の施術時間になることが多いです。もちろん施術者は患者さんの辛さが軽くなるように丁寧に施術を致します。しかしながら、もっとじっくり施術して欲しい方や時間をかけて全身くまなく診て欲しい方には物足りないかもしれません。一方で保険適用により1回の施術単価は負担が少なくなるので、週に数回の施術を希望される方もたくさんいらっしゃいます。

3)プライベートな空間に他人がやってくる

訪問マッサージをご利用になる際はご自宅へ施術者を招き入れることになります。セキュリティーの問題もあります。自宅へ他人を入れたくないという方には不向きでしょう。

4)時間や担当の変更がしづらい

訪問マッサージは初回に訪問した施術者が継続して担当することが多く、一度固定した日時や施術者を変更する際には担当施術者や担当事業所との調整が必要です。多数の案件を担当している施術者や事業者の場合は時間や担当者の変更は難しいかもしれません。

適切な保険利用を

本来、あん摩マッサージ指圧・はり・きゅう・柔道整復術を受ける際に健康保険を適用する為には、それぞれの適応症状であると医師に診断を受けなければなりません。

肩こりや腰痛の症状改善を目的に接骨院や整骨院で保険を利用して施術を受けることは違法行為として詐欺罪や民法による損害賠償を請求される虞があります。不適切な誘因をする施術者側が最も悪質ですが、利用者側も知らないうちに犯罪に加担してしまっている事があるので注意が必要です。


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<ライティング・監修>

鈴木恭平
あん摩マッサージ指圧師
2021年「より多くの人が正しい”あはき”を受療できるように」とコンプライアンス意識とプロフェッショナル意識の高いあん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師の紹介サイト『AHAKI BASE』を立ち上げ。(”あはき”はあん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師の略称)
同年、なりひら治療院開業。

より多くの人に”あはき”を知ってもらうことで、より多くの”あはき師”が働くことができる世の中になるという想いのもと、よりたくさんの先生方のご紹介と”あはき”についてを発信していきます。

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