44歳の誕生日を目前とした初秋、私は仕事中に体がどうしようもないくらいの怠さを感じました。夏バテが今頃来たのかな?それとも前日の疲れがまだ残っているのかな?とにかく体がどこかに流れてしまう位の怠さ、夕方までその怠さを我慢しようにも出来ず、幸いにも会社の近くにある実家になだれ込むようにして帰りました。
まさか更年期!?
丁度実家の母が買い物に出かけようとしていた時でした。私の症状を言うと、ひょっとしたら更年期障害かも知れないねと言うのです。
まさか、そんな歳ではない、きっと夏の疲れだと半ば怒って答えました。私の更年期障害のイメージは50歳前後の閉経前の女性がなる病気、まだ自分はようやく44歳になろうかというのにとんでもない。まるで自分が母親の年代と一緒にされた様な気がしたのです。母はカリカリした私を見て、ほら、カリカリするのも更年期障害の症状よ、そんなに気になるなら病院に行けばいいじゃないのと笑いながら出かけて行きました。
私はしばらく横になり、起き上がったらまだ怠さが残っていたので、近くのクリニックに行きました。医師に、母が更年期だと言うのだけれど早過ぎますよねと聞いてみました。医師は更年期障害が出るのは、閉経期を迎える45歳位から50歳位の年齢にみられる症状だが、年齢はまちまちと答えました。念のために加味逍遙散という漢方を処方しようと言いました。漢方なのですぐには効かないと言われ、母が一時期していたニンニク注射をして貰いました。その日、翌日は良かったのですが、またダウン。漢方薬もそんなにすぐに効くわけでもなく、かといって会社を休むわけにはいかず、実家に再びなだれ込んだのです。
正直、躊躇しました。なぜなら、幼い時からその按摩をするおじさんをずっと見ていて、お母さんはなんでこんなおじさんに按摩をして貰うんだろ?男の人に体を触らるのは嫌ではないのかな?子供心にいつも思っていたのです。おじさんは布団にうつ伏せになった母の頭からつま先まで、ワシャワシャワシャと軽く揉んだり、時にはまるで、ピアニストが感情を込めて強く鍵盤を叩く様に、母の体の一部を指先で押したり。その度に母が唸ったりしていたので、子供だった私は、唸るのにお金を払ってまで按摩をしている大人が全くをもって理解できなかったのです。
30代に入り、私も人並みに肩こりや腰痛が出たりしたので、友達と温泉に出かけたついでにリンパマッサージに行ったり、足つぼマッサージに行ったりしていました。酷い時はロキソニン、ボルタレンなどの病院で処方された痛み止めや、湿布を貼ったりしていました。
ヨガに通ったりしていた時期もありましたが、今となっては後の祭りです。
「按摩のおじさんはいるかいないか分からないよ、して貰いたいなら電話してあげる。おじさんは夜は来てくれないよ、どうする?」母の言葉に、またニンニク注射を打って貰うからいいよと断りたかったのですが、また二日後にその症状がでるかと思うと、断ることは出来ませんでした。
初めての按摩
おじさんは、私を見て、もうそんな歳になったかな?と笑いました。私も苦笑いしながら横たわりました。おじさんはどこが痛いとか、どこがどうだとか、そんな質問は一切なし、私の背中にバスタオルを当てて大きな手でゆっくりと揉み始めました。最初は首筋を揉み始めました。母があの時唸った様に私も唸ってしまいました。どうして怠いのに首筋から?聞きたいけれどあまりに痛かったり気持ち良かったりで聞くことが出来ませんでした。背中が岩の様に堅いと笑っていました。それから二の腕、指先まで丁寧に揉んでくれました。驚いたのが、脚の膝の少し上の内側が飛び上がる位痛くて悲鳴を上げると、おじさんは、ここはリンパ線だから誰でも痛い心配しなくていいよと笑いました。おじさんの言うくるぶしの内側の少し上のポイントが痛かったり脚の小指の少し斜め下が痛かったら更年期障害だったりするよ、酷い時はここを押したらいいよ、とアドバイスをくれました。
しっかり1時間揉んでもらって3500円、リンパオイルマッサージ、1時間6000円を考えると破格でした。終わった後は体が荷物をどこか置いて来たかのように軽くなりました。「おじさん更年期障害なの?」と聞くと、おじさんはにっこり笑って、私は医者じゃないから分からないね、名前を付けたからったら自分で付けなさいとユーモラスに答えました。もうおじさんも母と同じ70代に突入して、流石に母と私を2人続けて按摩する元気はないそうですが、私一人位揉む元気はあるそうです。ストレス社会で色々な病気、色々なマッサージがありますが、病院の薬でも、疲れに効く温泉でも、行ってみて効かない時は、ダイレクトに体を解してくれる按摩もいいものだと思いました。